これをジャケットに使われちゃそりゃあ食いつくってもんである~ジェラルド『虚実の城』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2021/3/24 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第137回:これをジャケットに使われちゃそりゃあ食いつくってもんである


最終水曜日の前週は国内アーティストの回。というわけで昨年の100回記念セコセコショッピング((https://33man.jp/article/column38/009021.html))にて購入したなかで、国内アーティストとしては最後となるプログレッシブ・ロックバンド、ジェラルドさんのご登場だ。

ジェラルド『虚実の城』(1985年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

もともとは同系統の音楽性をもつバンド、ノヴェラのキーボーディストだった永川敏郎氏が中心となって結成されたバンドで、個人的にはノヴェラが大好きだったのでその延長にあるこちらも気になったのと、ジャケットの美しさに惹かれて購入させていただいた。

当然ながら煌びやかなキーボードを主軸とした幻想的な世界観で、テクニカルな演奏と1980年代特有の空間的な音作り(本来この手の音は好みではないが)がいい方向に作用していて心地よく聴かせてくれる。特筆したいのは藤村幸宏氏のギター&ボーカル。彼はギタリストとして優れたテクニックをもっているだけでなく、繊細で伸びやかな声をもつボーカリストとしても魅力的で、ジェラルドの音楽性にも合っているし、彼のプレイがアルバムの完成度に大きく貢献しているように思う。

ただ全体的に歌詞がネガティブだ。まあ僕は歌詞よりも音重視で音楽を聴くほうなので別に気になるというほどではないが、でもネガティブだ。うん、ネガティブだ。

で肝心のジャケットだが、こちらは美術史上でも非常に有名な作品で、ジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』という作品である。ミレーはラファエル前派(絵画においてはまずラファエロを模範とすべし、というアカデミックな風潮に逆らおうとしたロックンローラーたち)に属する画家で、オフィーリアとはシェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場するこれまた有名な悲劇のヒロイン。ミレーの代表作でもあるこの作品は、オフィーリアがなんやかんやあって気が触れてしまい、川で歌いながら溺死してしまうシーンを描いたもの。ネガティブだ。ああネガティブだ。

ただ悲劇のシーンを描いてはいるが絵画としてはやはり非常に優れた作品で、これをジャケットに使われちゃそりゃあファラオさんは食いつくってもんである。ちなみに彼らはほかのアルバムでもラファエル前派の作品をジャケットに起用しているので、たぶん好きなのだろう。

ジェラルドは活動休止中らしいが、プログレというマニアックなジャンルで長期間続けていくのはなかなか難しいのかもしれない。このクオリティならもっと知られてもいいと思うのだけれど。

でも歌詞はネガティブだ。やれネガティブだ。ほれネガティブだ。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。