ひたすらに楽しく健全なクラシックである~ルロイ・アンダーソン~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第140回:ひたすらに楽しく健全なクラシックである
今回ご紹介するのはこちら。
ルロイ・アンダーソン『タイプライター&トランペット吹きの休日~ルロイ・アンダーソン・ベスト・ヒット』(1995年)
ルロイ・アンダーソンという名前は一般的にはすぐにピンと来る人はそんなにいないかもしれない。しかし彼の残した音楽は間違いなくほとんどの人が必ず人生のどこかで通ってきている。それも一度や二度ではなく。
彼は1930年代~1970年代に活躍したクラシック音楽の作曲家だが、その作風は一般的なポピュラーミュージックと比較しても遜色ないほどにキャッチーで大衆的。また特徴的なのは楽曲の中にタイプライターや紙やすりといった実際の日用品の音を取り入れるといった遊び心があること。それも絶妙にいやらしさを感じさせない、上品で粋なバランスを保っているところが憎い。さらに楽曲自体の尺もおおよそ2分~3分程度のものが多いので、そのあたりが彼の楽曲の使い勝手のよさを感じさせ、結果、日常のさまざまなところで触れる機会が多くなっているというわけだ。
例えば僕もそうだが、小学校のときの運動会の徒競走で『トランペット吹きの休日』が流れていた学校も多かったのではないだろうか(足早いやつがモテるという意味不明な時期)。それに今でも冬の時期になると必ず街で聴こえてくる『そり滑り』や、時計のリズムをユーモラスに取り入れた『シンコペイテッド・クロック』(この曲、目当てで僕は買いました)、オフィスの慌ただしさを皮肉交じりに表した『タイプライター』といった曲は誰もが知るところだろう。
そんなルロイ・アンダーソンの代表曲のほとんどが収録されているこの『タイプライター&トランペット吹きの休日~ルロイ・アンダーソン・ベスト・ヒット』のジャケットがまた、おおよそ一般的なクラシック音楽に対するお堅いイメージとはかけ離れた非常にコミカルなデザインである。スウィングジャズとかのCDジャケットかとも思えてしまうが、ポップでとっつきやすい彼の音楽にはとても合っているし、誰でも手を出しやすいというのはいいことだ。彼の音楽をきっかけにクラシックに興味をもつ人も多いだろうし、そういう存在はどの業界にも絶対に必要である。重要なのはポップな性質を持っているからといって本質的なレベルが低いというわけではないこと。
ひたすらに楽しく健全なクラシックである。月並みな表現だが「一家に一枚」あると家庭がちょっと明るくなるかもよ?