メタルファンのなかでは名盤と語り継がれるアルバム~ライオンズハート『獅子の咆哮』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第144回:メタルファンのなかでは名盤と語り継がれるアルバム
今回ご紹介するのはこちら。
ライオンズハート『獅子の咆哮』(1992年)
1990年代初頭というとどうしてもハードロック/ヘヴィメタルファンからすると暗黒の時期という印象が強い。もちろんそれはグランジブームによる影響だが、英国のメタルシーンにおいてはそれだけでなく、英国人としてのプライドを捨てアメリカ市場に魂を売ってしまったミュージシャンが多かったことも原因となっているようだ。
そんななか登場したこのライオンズハートの音楽性ときたら、ブルージィでいながら哀愁があり、湿り気のあるサウンドに美しいメロディと、まさに絵に描いたようなブリティッシュハードロック路線で、しかもそのクオリティの高さはメタル界にもう一度活気を取り戻すべし、というメタルファンの大きな期待を抱かせるのに充分な内容であった。
そして結論から言ってしまうとダメでした。
ある種、例のごとくとでも言おうか、結局このアルバムを発売してまもなくバンド内での人間関係の不和からメンバー脱退、その後のライブは不調、以降のアルバムは不振と、ロック界の嫌な様式美にはまりこんでしまった一発屋に近い残念なバンドとなってしまったのだ。なーにやってんだよもう。だが人間関係というのは世の中で最も難しい問題のひとつだ。ゆえに傍から見てるだけの他人が簡単にどうこう口を出せるもんではない。もうこればかりは本当に。いや本当に。え?いや、本当に。
しかし本人はどう思っているかわからないが、メタルファンにとっては名盤と語り継がれるほどのこのアルバムが盤という形で世に残っているだけでも幸せともいえる。何しろこのアルバム、今やブックオフで100円で買えちゃうレベルなのだから。上に書いたようにブリティッシュハードロックのおいしい部分を詰め込んだような音楽性と、ロニー・ジェイムズ・ディオを彷彿とさせるスティーヴ・グリメットの高い歌唱力は確かに素晴らしい。
ジャケットの雰囲気も英国のバンドらしい、暗さと気品を感じさせる優れたデザインだと思う。一枚の絵画としても非常にレベルの高い超絶技巧がうかがえるが、既存の作品だろうか。そのあたりは記載がなかったので不明である。
彼らのように素晴らしい完成度のファーストアルバムを出し期待させておきながら色々な裏の事情により早々に失速、というパターンはロック界に多い。長いロックの歴史の一部としてそのあたりに想いを馳せながら『獅子の咆哮』を聴いてみるのもいいかもしれない。
ちなみに彼らはライオン「ズ」ハートだが、「ライオンハート」というバンド(同じイギリスでしかもこっちのほうが先輩)もいるのでご注意。
坂井真紀か酒井美紀かみたいなあれ。