この音楽性にしてこのジャケットは最強の組み合わせである〜ラナ・レーン『ガーデン・オブ・ザ・ムーン』~平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第149回:この音楽性にしてこのジャケットは最強の組み合わせである
今回ご紹介するのはこちら。
ラナ・レーン『ガーデン・オブ・ザ・ムーン』(1998年)
ラナ・レーンはアメリカ出身のボーカリスト。ジャンルはプログレッシブメタルに括られることが多いが、シンフォニックロックとも呼ばれたりする。この時代のこのジャンルの女性ボーカリストとしてはわりと知られている人である。
今でこそこういったシンフォニック系のメタルバンドで女性ボーカルを据えたバンドは相当増えたが、当時は目立った存在はまだ少なく、また現代のシンフォニックメタルバンドの女性ボーカルはわりとオペラの影響を取り入れた歌唱法を行う人が多いのに対し、ラナ・レーンの歌唱法はもっとストレートにロック的である。そのため曲によってはかなり男性的なハードロックチューンも力強く歌いこなすことができる。バラード系の曲に込める情感も見事なものなので、総じて歌唱力は高い。
『ガーデン・オブ・ザ・ムーン』はたぶん彼女のアルバムのなかでは最もよく知られた代表作で、イマジネーションを駆り立てられる世界観、美しいメロディ、シンフォニックながら適度にハードなサウンド、楽曲の幅広さ、まとまりのいい構成と、この手の音楽を好む人ならペディグリーチャムを目の前にした雑種犬のごとくよだれが止まらない素晴らしいアルバムである。いくつかの圧倒的な名曲があるなか、個人的にはボーナストラックの『天使のシンフォニー』のライブバージョンにKOされた。まさに息をのむ美しさである。
ジャケットのデザインはポーランドの画家、ヤチェク・イェルカという人の手によるもの。シュールレアリスムの画家で、ダリやマグリットの影響は感じられるが、この人はこの世に存在し得ない不思議で幻想的な風景をメインで描いている。
本作においても前景のスラム街を思わせる寂れた建物の向こう側に見える天国のような風景が、鑑賞者の意識をぐっと吸い寄せ、思わずこの世界に迷い込んでみたいと思わせる魔力を放っている。まさにこの音楽性にしてこのジャケットは最強の組み合わせである。ペディグリーチャムにドギーマンが加わった。
ナイトウィッシュやウィズイン・テンプテーションが好きならラナ・レーンもきっと気に入るはずである。ぜひ一度この美しい世界観を体験してみてほしい。
必要なもの:よだれかけ