買ってのお楽しみ的なことなのか〜エマーソン・レイク・アンド・パーマー『展覧会の絵』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第186回:買ってのお楽しみ的なことなのか
今回ご紹介するのはこちら
エマーソン・レイク・アンド・パーマー『展覧会の絵』(1970年)
1950年代にロックという音楽が生まれてからわずか十数年後に、プログレッシヴロックという実験的であり前衛的なジャンルが生まれたのはよくよく考えてみればすごいことだと思う。それだけロックという音楽がより深い可能性を追求する価値があり、またそれを可能にするだけの人口の絶対数がいたということだろう。さすがは20世紀が生んだ最大の文化。今では世を動かすだけの巨大な文化ではもうなくなってしまったように思うが、その創成期は進化のスピードも尋常なものではなかったようである。
しかも今回紹介するエマーソン・レイク・アンド・パーマー(EL&P)は、ロックにクラシック音楽を導入しロックアレンジを施してしまうという大胆な手法に挑戦していた革新的なバンドである。チャック・ベリーがベートーヴェンをぶっとばせと歌った十数年後にめちゃめちゃクラシックに歩み寄るという、この極端な多様性がすでに生まれていたことがロックのおもしろいところだ。
EL&Pはキーボードのキース・エマーソンが中心となって結成されたバンドで、メンバーそれぞれがすでに前のバンドで成功を収めていた、いわゆるスーパーグループというやつである。キースはロック史の中でもディープ・パープルのジョン・ロードと人気を二分するキーボーディストで、日本では小室哲哉さんなど、彼の影響を受けたキーボーディストは実に多い。
ボーカリストやギタリストがバンドの花形として見られがちなロックの世界で、キーボーディストのスタープレイヤーという立ち位置を確立することに成功。それは単純に技量的なところのみでなく派手なパフォーマンスによる部分も多く、オルガンにナイフをぶっ刺したり、オルガンの下敷きになったり、オルガンを蹴り飛ばして壊したりと、明らかにオルガンと仲悪いだろと言いたくなるほど、キャリアを通してオルガンと死闘を繰り広げ続けていた。いわばギタリストでいうところのピート・タウンゼントやジミヘンがやっていたようなことをキーボードでやっていたわけである。
『展覧会の絵』はEL&Pのライブアルバムで、ロシアの作曲家ムソルグスキーの有名な組曲を彼ら流にアレンジしたもの。本来のコンセプトどおり、展覧会で一枚一枚絵を眺めて歩いているような構成ではあるが、EL&Pのオリジナル曲も収録されており、また演奏もクラシック的なかっちりとした格調高い感じというより、魂を吐き出すようなロック的な情熱が前面に出ているアルバムだ。なので題材が何であれこれは純粋なロックアルバムとして聴くべき作品でもあると思う。
ジャケットはコンセプトに合わせた絵画のコレクション的なデザインだが、 すべての絵画が白紙である。一見、未完成に見えてしまうが、開いて中のデザインを見ると『プロムナード』以外には曲に合わせた絵がしっかりと描かれてある。『プロムナード』は曲間に数回挟まれ毎度表情が変わるので白紙なのはわかる。しかし他の曲もあえて開くまでは想像できないようにしてあるのはちょっと謎だ。単純に買ってのお楽しみ的なことかもしれないし別に深い意味はないかもしれないが。ただ非常に印象的であり素敵なジャケットではある。
キース・エマーソンは悲しいことに2016年に自殺により亡くなってしまうが、彼の遺した功績の大きさを考えれば彼は明らかに人生の勝ち組だった。
ただオルガンとの勝負は天国に持ち越しのようだ。