上品なデザインは彼の良質な音楽性に合っている〜エリック・ジョンソン『ブルーム』〜平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載

連載・コラム

[2022/3/9 12:00]

音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。


第187回:上品なデザインは彼の良質な音楽性に合っている

今回ご紹介するのはこちら

エリック・ジョンソン『ブルーム』(2005年)

<あの海外セレブの背後に偶然ロバートが写り込む奇跡>

世の中にゃ大衆的な人気を博すことなく、同業者や玄人好みの独自の表現を追求し続けている人がいる。あえて好きなことをやっているだけなのか、大衆的な表現をやれるだけの器用さがないのかはそれぞれだろうが、エリック・ジョンソンはかねてより“ミュージシャンズ・ミュージシャン”と呼ばれる職人気質のギタリストであることは一部の間でよく知られているところだ。

以前アルバム『ヴィーナス・アイル』を取り上げたときも触れたはずだが、彼のすごいところは徹底的なまでの音に対するこだわり。エフェクターに使用する電池のメーカーや、ステージでのアンプの位置や向き、そのアンプの音の響きを良くするために下に角材を敷き、さらにその角材の上下の向きまで気にするという、ビッグバンセオリーのシェルドンじゃねえんだからと言いたくなるほど神経質に自身の理想の音を追求し続けている。しかし見た目はそんな頑固職人的なタイプには到底見えず、リスとかと暮らしてそうな物腰柔らかそうなイケメン。

そんなエリックが紡ぎだすギターの音色、これがまあこだわっているだけあって実に美しい。空気の澄んだ森のなかの透明度の高い湖のような、柔らかな陽のあたる丘に吹く涼しい風のような、聴くたびに体が健康になっていく気さえする純度の高い唯一無二のエリックトーン。高度なテクニックに乗せて響かせるそのトーンは、世に存在するあらゆるギタリストのなかでも最上級のカタルシスを味わわせてくれる。僕の数多い好きなギタリストのなかでもベスト3に入る人である。

ちなみにエリックは1978年に『SEVEN WORLDS』というソロデビュー用のアルバムを制作しているが、当時のレコード会社が流行に合っていないという理由で発売を見送っている。このアルバムはだいぶ後になって発売されたが、その内容の素晴らしさからもしこのアルバムが1978年当時に発売されていたら、エディ・ヴァン・ヘイレンを差し置いてエリックこそがその時代の主役としてフィーチャーされていたのではないかとも言われている。ビートルズをデビュー前にオーディションで落としたレコード会社もそうだろうが、実力を見極められない者にチャンスを潰されてきたアーティストがどれだけ多いかを考えると鼻毛がそよぎそうだ。

さてそんなエリックの個性は本作『ブルーム』においても充分なほどに味わえる。全体が3つの楽章に分けられたクラシック的な構成は今までにないところで、各楽章においてそれぞれ異なったアプローチをみせてくれる。楽曲そのものの質にばらつきがあるような印象を受けたが、ハマれる曲はとことんハマれる。美しきエリックトーンはさらに洗練され、ロック、フュージョンという基本路線は守りつつもジャズ、カントリースタイルのギタープレイまでハイレベルで弾きこなしている。そしてそんなギターサウンドに見合った透明感のあるエリックのボーカルもまた素晴らしい。ながら聴きでなく深くその幻想的な世界に入り込んで聴くべきアルバムである。

ジャケットもまた毎度のことながらハイセンスだ。上品で落ち着いた緑と切り絵のような扉のデザイン。ブックレットには楽曲ごとに異なったデザインの扉があしらわれており、それぞれのイメージを表現しているのだろう。独立したイメージよりもコンセプト的に少なくとも3楽章それぞれでまとまった印象があるので、扉の効果のほどはわからないが、この上品なデザインはエリックの音楽性に合っているし、紙ジャケ仕様なのも個人的に嬉しいところだ。

ヴァン・ヘイレンを食ったかも知れないギタリストと聴けばロック好きは気になるだろう。ぜひ一度職人こだわりのエリックトーンをご賞味あれ。

ちなみに僕は音楽を聴くときスピーカーから正面約50センチ手前のところに顔がくるようにし、なるべく深く入り込みやすい夜の時間帯に、必ず歌詞を見ながら、よく音飛びするポンコツCDプレーヤーで聴いてます。こだわりきれませんでした。

平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)

ひらい“ふぁらお”ひかる●1984年3月21日生まれ、神奈川県出身。2008年に新道竜巳とのお笑いコンビ“馬鹿よ貴方は”を結成。数々のテレビ/ラジオ番組に出演するほか、『THEMANZAI2014』『M-1グランプリ2015』の決勝進出で大きな注目を集める。個人では俳優やナレーターとしても活躍。音楽・映画観賞や古代エジプト、恐竜やサンリオなど幅広い趣味を持つ。