コンペで起きた悲劇っ!~m.c.A・T『なんて言うんですか、こんな音楽感』第17回

連載・コラム

[2021/6/28 12:00]

ボンバヘッ!でお馴染みのヒット曲『Bomb A Head!』のほか、DA PUMPの育ての親としても知られるm.c.A・T。日本屈指のプロデューサーの自伝的連載がスタートだぜっ!


 しっかし、コロナは落ち着きませんな。まだまだたくさんの方が感染されております。自分のまわりにもじわじわ増えてまいりました。ほぼ変異種での感染だそうで、何しろキツいらしいです。特に喘息をお持ちの方が肺炎になり重症化するようです。自分の知り合いでも仕事などで移動が多い方が感染されています。今後もできるだけ注意してくださいね。

 ちなみに俺は喘息等の持病はありません。でも怖いので注意を怠りませんよ。ワクチンもちょっと怖い。今までのワクチンと作り方が違うようで。そりゃ〜そうですよね。こんな短い時間で作ったのですから。もう少し考えてから受けるかどうかの返事をしようと思います。インフルエンザにもなかなかかからない俺ですし(笑)。

若きA・Tくん、有頂天からまさかの……

 さ、お待たせいたしました。含みを持たせた感じで前回は終了しましたね。CM曲のコンペに曲を提出した若きA・Tくん。CM起用に決定しているバンドさん(かなり有名)は、今回は自分たちの曲ではなくほかの人が作った新しい感じの曲を歌いたいということで、そのCMのための曲を募ったというわけ。

 曲のテーマも「ダンスミュージックでディスコの匂いもするキャッチーな曲」ということで張り切って作曲した。CM制作会社の方からも「バンドさんもかなり気に入ってくださっているようです! 最終の4曲までに残っていますよ!」と。もう調子に乗りやすい若きA・Tくんはかなり有頂天になっていたことでしょう。そしてついに……! 「残り2曲まで絞られました! もちろんA・Tさん曲も残っています!」とCM会社さんから連絡あり! もう一曲がどんな曲かは知らなかったけれど、自分の得意分野の曲だったし、コンペに出さなかったら自分の曲にしようと思ってたくらいでしたからね! もうスーパー有頂天ですわ!

 ギャラはいくらかな〜、何買おうかな〜、バンドさんのレコードやCDになったら名前載るんだろうな〜、親も喜ぶな〜と至極の妄想に浸っているとCM会社さんから連絡があった。もうこっちはドッキドキ。すると担当さんが「A・Tさん……とても言いにくいのですが……」ときたもんだ!

「あ、落ちましたか……」
「いえ、落ちたとかじゃなくて……」
「???」
「突然なのですが、バンドさんがやっぱり自分たちで曲を作ります、ということで」
「はぁ?」

 あんまりないケースだそうで、担当さんも大変申し訳なさそうに伝えてくださった。「A・Tさんやほかの方の曲がよかったので音楽家魂に火がついたのかな」とか担当さんと話して、「またCM音楽コンペにお誘いいたしますので」とありがたいお言葉をいただき電話を切った。

 あ〜短い間だったけど夢見ちゃったぜ〜。またがんばろう!とスーパー有頂天だが切り返しも早い若きA・Tはまた自分のための曲を作り始めた。そして、それから2週間くらい経った頃、CM会社の担当さんから電話があった。

「A・Tさん! CM見ましたか!?」

 やや焦ってるというか、怒っているというか。俺、なんかやらかしちゃっただろうか、まず思うのはこんなこと。子どもの頃からそう。今もそう。「俺、知らないうちになんかやらかしちゃった?」ってね。

「見てませんが何のCMですか? 俺なんかやらかしましたか?」
「何言ってるんですか! やらかしたのはあのバンドですよ!」
「???」
「かなりCMが流れているので、じっくり曲を聴いてみてください! 絶対にいいCM取ってきますからね! 私からも心から申し訳ございません」

 全然意味がわからなかったが、その日、作業をしながらテレビでそのCMを見た。まぁびっくり! こないだまで俺が作っていた曲にそっくりなサビが!

「なるほど〜! そういうことかぁ〜!」

 バンドさん名義で作られたシングル曲は俺の作った曲のパクリだった(笑)。デモで歌った言葉も使ってらっしゃる(笑)。コンペではその曲をどんな人が作ったのか、曲が採用されるまで明かされない。だからこうやって若き芽が摘まれても本人以外はわからない。今回は担当さんが俺と同じ気持ち、いやそれ以上に怒ってくださったので、不思議と俺自身の怒りってのはあまりなかったが、かっこいいフレーズだったので「もったいね〜な〜」くらいは思ったと思う。

 有名なバンドさんなので絶対に名前は出さないけれど、同じ業界にいるとめちゃお会いする。だからイベントで一緒になってたとしても、打ち上げにメンバーさんがいらっしゃったらあまりお酒を飲まないようにしようと思ってる。もしかしたら絡んじゃうかもしれんので(笑)。彼らはあの曲の母体を作ったのが俺様だとは今も知らないはず。めでたしめでたし(笑)。

 その後、CM制作会社の担当の方ががんばってくれて、太平洋証券さんのCMの話をもってきてくださり見事合格。自分史上初のCM音楽は太平洋証券さんでしたー! ヒュー!

 決してバンドの詮索とかしないように。ま、わからないと思いますが(笑)。そこんとこよろしくです! では今日はこの辺で!

m.c.A・T

1993年に『BOMB A HEAD!』でデビュー。ライブ活動と並行してプロデューサーとしても活躍し、DA PUMPのプロデュースを手がけて一世を風靡する。現在もさまざまアーティストへの楽曲提供/プロデュースワークを行う傍ら、ライブ活動を展開している。