【掟ポルシェの食尽族】第9回:紅ショウガ鬼盛り! 吉野家の牛丼の美味しすぎる食べ方

連載・コラム

[2020/3/20 12:00]

牛丼という混沌とした宇宙にふりそそぐ、サンシャワーとしての紅ショウガ

 一番好きな野菜は何かと聞かれたら迷わず「ショウガ」と答える程度にはショウガの味そのものが好きでして。子供の頃から親に紅ショウガをねだり、業務用を買ってもらい、常時切らさないようにしてたほどです。「生姜あるいは紅ショウガが無性に食べたい!」ってこと、誰にでもあるわけではないと思いますが、俺はあります。そして、この紅ショウガをもっとも美味しく食べるために有効なのが、吉野家の牛丼の上に鬼盛りすることなのです。
 吉野家では、常時“牛丼並、玉子、みそ汁” をオーダー。食べる手順としては、牛肉を丼の端に寄せておき、いくら入れても辛くない吉野家特製七味を大量に玉子に混ぜておいて、米部分にぶっかけてさらに混ぜます。上から見ると牛肉と玉子混ぜ米部分が陰陽太極図(Yin/Yang)になるようにし、牛丼の中に宇宙を表現します(何言ってっかわかんないと思いますが自分でもよくわかんないので大丈夫です)。そしてここでおもむろに紅ショウガが入った箱の蓋を取り、トングをクワッ! と最大角に開いて紅ショウガをアホほど鷲掴みできるようにし、フゥッ、と深呼吸。UFOキャッチャーで大物が掴めたときの要領でテーブルの上にこぼさないよう念を込めながら、丁度丼がきれいに紅ショウガで埋まるよう鬼のっけデコレートします。牛丼という混沌とした宇宙にふりそそぐ、サンシャワーとしての紅ショウガ。これからこの宇宙の真理を一気食いするのだと思うとカウンターで合掌したまま涙が止まらず、キャストさんやほかの客がなんとなく俺を視界に入れないようにしている感じになりますが、俺も目の前の牛丼のことで頭がいっぱいなので大丈夫です。そうしてから、紅ショウガ4→牛肉2→七味玉子牛汁ご飯4の割合と順で口に放り込み咀嚼。酸味と塩分のもっとも効果的な摂取方法である牛丼紅ショウガ鬼のっけ盛という愉悦が、牛丼をネクストレベルにアウフヘーベンし倒します。牛丼による宇宙との一体化、そんなことができるのは吉野家だけです。

 ………………(半開きの目で虚空を見つめ、口から大量の涎をたらして)ハッ! す、すいません、なんかちょっと頭がおかしくなってたみたいですが、ここからは手加減して書きます。そうなんです、紅ショウガの酸味と塩分が極端に好きなだけなんです。吉野家にはもちろん牛丼を食べに行っているわけですが、同時に紅ショウガを大量摂取したくて行っているとも言えます。大好きな紅ショウガをもっとも効果的に味わう方法、それが自分にとって吉野家の牛丼なのです。

紅ショウガのない牛丼なんて考えられない!

 卓上の紅ショウガなんてそんなもん、どこの丼もの系外食産業チェーンで食ったって一緒じゃねえかよ、と仰る向きもあるでしょう。しかしですね、これが全然違うんです。吉野家以外の紅ショウガは、自分の理想とする酸味&塩分バランスとはかけ離れていてどうも具合が良くない。その昔、連載コラムの原稿で、「某牛丼チェーンの紅ショウガがびっくりするほど甘くて、俺は卓上にフルーチェが置いてあんのかと思った」と書き飛ばしたことがあります。冗談半分本気半分な、表現の範囲を超えないものとして素直な意見を書いたところ、某チェーンのTwitterアカウントから「コラム読みました。厳しいご意見ありがとうございます」と暗い表情がうかがえる直リプが来て焦りました。しかもその3週間後くらいに、息子がどうしてもその某チェーンの親子丼が食べたいと言うので再訪したところ、なんと紅ショウガの味が甘くなくなって吉野家にあるものと似た感じになっているではないですか。某チェーンの営業努力というか、1ユーザーの声に耳を傾ける姿勢に感服した一件でした。その後まったく行ってないので今はどうなったか知りませんけども(某チェーンの方、その節はすみませんでした&ありがとうございました!)。昔は自分のことを牛丼好きだと思っていましたが、いろいろな牛丼チェーンを試すうちに、牛丼の味自体も、紅ショウガのクオリティも、やはり自分には吉野家がベストであり、それ以外の店には行かないようになりました。

 で、たまにですね、「牛丼屋の紅ショウガがタダだからといっていくらでも乗っけてる卑しい奴」みたいに言われることもあります。あー、なんもわかってねえな、と。紅ショウガを鬼盛りするのはタダだからではなく、あれが自分にとって適量だからやってるわけで、少しずつ入れながら食べても丼真っ赤に見える分量に結局最終的にはなっちゃうのであって、申し訳ないですが、しょうがないのです!
 もし、紅ショウガが有料になったとしたら必要な分だけ買って入れますし、1回の食事で摂っていい紅ショウガの量が制限されるようになったら最悪行かなくなる可能性もあります。それくらい紅ショウガが大好きで、自分にとって紅ショウガのない牛丼など考えられない! 紅ショウガがない牛丼は、自分にとって水のない川! エンジンのない車! 弦の切れたギター! ヤニのないタバコ! そう言ってしまうと「じゃあ牛丼じゃなくて紅ショウガ丼食ってろ!」と言われるかもしれませんが。吉野家の牛丼のあの複雑な味の煮汁と合体してないとダメなんですよね。
 こうした自由度の高い食べ方が許されるのが、大手外食産業チェーンの魅力でもあります。みんなも好きにカスタマイズして牛丼食べてみよう! ……とは思うものの、一度吉野家で隣りの客が「牛丼つゆダクダクダク、玉子×3」と注文。これらをグッチャグチャに混ぜてゲル状にし、牛丼を食べるのではなくズルズル吸引していたときだけは、さすがにこれを禁じる法律なんかないかなと思いました。あの人にはあれがベストな食い方だったんだろうけど。人のことになると、途端に理解できなくなることってあるよね~。

スガシカオさんも紅ショウガで丼埋め尽くして牛丼食べるそうです。勝手に親近感

掟ポルシェ 今後の予定

2020.3.31(火)
『スナック掟ポルシェ』
@高円寺 パンディット
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2019.4.4(土)
『ギュウ農フェス春のSP2020 〜5th anniversary 2days〜 初日』
@新木場 スタジオコースト
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2020.4.12(日)
『悲観レーベル10周年GIG 2日目』
@東高円寺 二万電圧
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2020.5.17(日)
『春の魔物』
@高円寺 HIGH/グリーンアップル/ShowBoat/Club ROOTS!/JIROKICHI

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。