【掟ポルシェの食尽族】第15回:なぜ名物はマズいのか? その理由はコレだ!

連載・コラム

[2020/9/28 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第15回:なぜ名物はマズいのか? その理由はコレだ!


「名物にうまいものなし」の法則を分析

 昔から俗に、「名物にうまいものなし」と申します! 仕事で地方によく行く私にはこの「その土地の名物と言われる食べものにはうまいものがない」という慣用句の真意がよ~~~~~くわかります!
 そう! 名物ってマッズイんですよね~(カイガラムシを噛み潰したような最悪に苦々しい顔で)。もうね、地方行っても絶対に名物だけは食べないようにしてます!  そうすれば美味い店なんかどの街にもあるもんです。「うちの街はそばが名物」とか凡庸なことを声高に言ってる地方よくありますけど、そういうとこで東京の現代的なおしゃれそば屋より美味いそば出てきた試しはないんで。フレンチとかカレーとかラーメンとかなら美味しい店いっぱいあるのに、そういうのはよそ者にほど教えてくれない。旅先でぼんやりした味のもの食って帰るのは何より嫌! だから名物、ダメ絶対!
 何故、名物はマズいのか? 今回はありったけのしかめっ面でずっと思っていたことをそのまま直球で書きたいと思います。

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【名物マズいの法則:1「名物のほとんどはすっごい昔から味が変わってないからマズい」】

 俺が一生のうちに食べたものの中でもぶっちぎりトップにマズかった名物が三重県伊勢市の伊勢うどんです。食べたことのない方にどういうものか説明すると、うどんとは名ばかりのいたずらに満腹感だけを満たそうとするブニョブニョの食感、そこに甘じょっぱいだけのタレをトロ~リぶちまけた非常に古式ゆかしい味の凶悪料理です(※あくまでも個人の感想なのでブニョブニョ食物大好きな方にはちょうオススメ!)。伊勢の街自体は大好きなので、あの前時代の産物・伊勢うどん推しだけはホントどうにかなりませんかね。
 伊勢うどんがなんでマズいかというと、江戸時代からある古い味の名物だからだと思われます。歴史をたどれば、江戸時代以前よりこの地方にあった農民のハレの日の食い物(地味噌のたまりをかけたうどんのようなもの)が起源なのだそうで、まずその段階でとてもありがたいものであったと。そして伊勢うどんがこの地の名物として広まったのは、江戸時代中期に庶民の間でお伊勢参りが大流行したことが大きく関与しています。自由に観光旅行することを禁じられていた時代、信仰を理由とした神社参拝だけは庶民に許されており、中でも伊勢神宮参詣は庶民の夢と言われるまでに大ヒット。全国各地からとんでもない人数の参詣客が訪れることに。お蔭参りとも言われるお伊勢参りのために全国から徒歩でやってきた参詣客を見込んでうどん屋ができて、そこで地元の特徴的なうどんを改良して出したのが伊勢うどんのはじまりだと言われています。ありがたい神様のいるお伊勢さんのお膝元、夢の旅先で食べる食事なんてどんな味のものでもすごく美味しく感じるでしょうし、そりゃあ江戸時代だったらもう“食べるガンダーラ”って感じだったんじゃないでしょうか。美味いとかマズいとかではすでにない“ありがたい味”だったんだと思います。
 砂糖が庶民にも手に入るようになり多少のマイナーチェンジはあったとは思いますが、随分前からあの味と食感で、大ヒットした名物だから味を進化させる必要がなく、名物だから美味いものだと信じて疑わず、時代が変わって現代的な味覚の美味いものが世の中に散々増えても昔の味のまま旅人に勧められ続ける。「名物にうまいものなし」の構造がここに顕著に見てとれるかと思います。
 このコラムでも何度も書いてますが、現代において味覚は日進月歩でその“美味い”を更新し続けていくもので、美味いと言われた飲食店も時代に合わなくなれば潰れることもある。しかし、名物として定着したものは味の原型をいつまでも変えないままその地を代表する食べものになってしまい、その多くはその土地以外からそこにやってきた者に“●●(地名)といえば”と美味さをバージョンアップすることのないままおすすめされ続け、結果的に「名物にうまいものなし」という言葉が慣用句にまでなってしまったと。名物を作る人がいて、食べる人の「せっかく地方に来たのだからその土地の名物をご相伴に与ろう」というエラー行為が当たり前のこととして蔓延する限り、古すぎる名物ほどなくなることはないでしょう。

【名物マズいの法則:2「近年できた名物でも美味さよりもオリジナリティを優先させたものはやっぱりマズい」】

 よくありますね。「捻ればいいってもんじゃないだろ」って料理。「それお前、『ありなしでいえばありなんじゃないですかね』程度で見切り発車しただろ」って料理。そう、豊橋のカレーうどんのことです。毎年出ているイベントがあって豊橋はここ10年ほど年1~2ペースで訪れていまして、当然あの豊橋のカレーうどんにでくわすわけです。豊橋という街自体とてもいいところで大好きですしできれば悪いことは言いたくない。いや、でも……あのカレーうどんを名物にしていることだけはどうかご勘弁願えませんでしょうか!
 食べたことがない方がほとんどだと思いますのでご説明します。パッと見は普通のカレーうどんです。ひと口食べても普通のカレーうどん、しばらく食べ進めても普通のカレーうどんです。なんだよ、普通のカレーうどんじゃねえか、普通に美味しいだけなんですけど?と安心したのも束の間、唐突にオリジナリティの意味を履き違えた物体が襲いかかります。そう、“カレーうどんの器の底にとろろをかけたご飯がある”。ね? 文字で書いただけでも「ん? 何故そのようなことを?」と思いますよね? 理屈としては「カレーうどんといえばルーが余りがちなもの。というわけで残りのルーも美味しく食べてもらいたくてひと工夫しました!」ってことらしいんですけど、えーっと……どこから突っ込めばいいかな……。まずね、“カレーうどんは汁が残りがち”って時点で軽く嘘だと思うんですよ。カレーうどんが開発されて以来というもの、みなさんカレーうどんという食品をなんの疑問もなく美味しく食べてきましたんでね。普通に全部汁飲み干してますけど? 何言ってんの? でも、うどん食べちゃったあとで半ライスとか入れて食べるって人もまぁいるでしょう、カレーライスというものがカレーうどんよりも以前からあって、ご飯とカレーの組み合わせはベストと言われてきましたからね。“カレーうどんにあらかじめご飯入れちゃった”程度のことはまぁいいでしょう……で、何故そこでとろろ入れる!? さもベストマッチ! みたいな顔してシレッととろろ入れる!? 豊橋カレーうどんの由来書いた紙を見て、とろろなんで入れたかの説明がないことに度肝を抜かれます。とろろには入れた理由書いてねーの。まぁ多分「カレーうどんの底にご飯入れました!」じゃあ名物として弱いという判断で「じゃあとろろご飯入れましょうか!」にしてオリジナリティ出そうとしたのはわかりますわ。問題はね、実際食うとこれとろろめちゃくちゃ邪魔なの。な、とろろカレーとか聞いたことないだろ。そりゃその組み合わせが誰も美味いと思えなかったから存在してないんだよ。「意外と合う~」じゃないっつの。意外と合うフリをするなっつの。まぁ100歩譲って「ありかなしかで言えば……まったくなしというわけではないけど……美味いかと言われると……うーん、いや……」程度です。“これじゃない感”とは言いませんが、“これを激推ししてくる気持ちがわからない感”には盛大に満ち満ちてしまっています。いや、豊橋ほかに美味しいものいろいろあるんだから、街を挙げてそんな不気味なオリジナル料理を名物認定して推さなくても……と思わざるを得ないのです。ちなみに2009年に町おこしのために開発されて、2010年からいきなり「名物です!」ってことになったようです。いや、正味な話、いまからでもやめておいたほうがいいと思います(※もちろん個人の感想ですそして個人が美味いマズいの感想を言う自由は日本国憲法でも第何条かで認められています多分)

 「待てお前、中には美味い名物だってあるだろうが」って? そりゃあね、当然ありますよ。なんだお前言ってること違うじゃねえかって? いやいや、そうじゃないんです。名物でも本当に美味しいものは全国区になるという法則があり、それは名物であると同時に“日本人全員が慣れ親しんだ味”でもあり、そこまでくれば名物と美味いがイコールになるってことです。つまりこういう法則が導き出されます。

【名物マズいの法則:3「名物が本当に美味しければ、その地にとどまるものにはならない」】

 先ほどからうどんに関する名物の事故例ばかり出てきますけど、これもうどんでその典型が例示できます。例えば讃岐うどん。腰のある硬めのうどんは全国に広まり、うどんといえば讃岐うどんがうどんのデフォルトと多くの人々に思われていますし、実際全国展開するうどんのチェーン店でも讃岐うどんが採用されるパターンがほとんどです。美味しいですもんね、讃岐うどん。そりゃ全国的に広まって当然だと思います。そこまで行くと香川県の名物ではなく、日本の食のひとつの基本です。
 一方ですね、その逆をひた走る腰のないフニャッフニャのうどんを名物として偏愛しているのが福岡のうどんです。そう、以前もこの連載で、てんとう虫をすり潰した汁を飲んだくらいのスーパー苦々しい顔で書き殴りましたね、ハイこれドン!
https://33man.jp/article/column43/007782.html

 大意はそこに書きましたんでここではざっくりとご説明しますけど、福岡県民の皆様はあの腰のないビロンビロンの博多うどんを非常に愛しています。その情熱度は豚骨ラーメンに対するものより遥かに上。「福岡ちゅうたらうどんばい!」ぐらいに思っています。今現在福岡に住んでいる私ですけども、住んでみてわかったのは“福岡のグルメ情報はうどん屋とパン屋ばっかり”だということです。でも福岡うどんは麺がビロンビロンなのを知っているので全然そそられません。福岡のテレビの情報番組とかうっかり観るとメチャメチャ萎えます。味覚が合わなすぎて。
 腰のある讃岐うどんが“これぞうどん!”と全国的に広まる一方、福岡のビロビロうどんがその地にとどまるものでしかないのは、他県民が食っても美味いとは思えない食感だからです。『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか』というタイトルの書籍まで出版されていますが、そんなもの答えは簡単。“うどんに腰は必要だと福岡県民以外みんなそう思っているから”。福岡県の某有名うどんチェーンが東京に店舗作っても結局長続きせず潰れてしまうのはそういうことです。福岡県民は日本一とも言える郷土愛を持っていてそこは大変いいことだと思いますが、郷土愛が強すぎるあまりあのフニャフニャのうどんを「イケるやろ!?」と他県民に激推ししてくるのだけは勘弁してほしいものです。本当に美味いものなら豚骨ラーメンや明太子のように、全国どこでも買えるようになりますから。
 というわけで、毎度おなじみの福岡ディスが止まらなそうなんで今回はこの辺で!

画:掟ポルシェ
サメに喰われる著者近影!

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掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。