【掟ポルシェの食尽族】第16回:「こんなの食べたことがない!」が味わえる札幌のスープカレー『村上カレー店プルプル』

連載・コラム

[2020/10/30 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第16回:「こんなの食べたことがない!」が味わえる札幌のスープカレー『村上カレー店プルプル』


前回と一転、今回は過剰に大絶賛するやつです!

 世の中には評論家という職業があります。ひとつのジャンルに精通し、知識の集積をまとめ、全体的な構造を分析して語ったり文章に書いたりすることを生業にされてらっしゃるスペシャリストのことで、なんというか自分には絶対できないので非常に尊敬しています。……え? 「お前の書いてるこの食いものコラムとか、毎回評論してるようなもんだろ」って? いやいやいや何をおっしゃいます、どうやらあなたたちは俺を買い被っておられるようですね……。
 あのね、俺は自分の好きなもののことしか知らないの! そのジャンルのもの全部に興味や知識があるなんて、無理無理! 音楽の好みにしてもそう! カーカスのことだけ異常に詳しい自負はありますが、ほかのデスメタルのことはなんん~~~~にも知らないの! マイケル・アモットって誰? 何してる人? 80年代のエレクトロニューウェーブが好き! とは言ってもソフトセルとマーク・アーモンドのことしか知らないの! デペッシュ・モードとかニュー・オーダーの話されてもまったく訳がわかりませんし、そのふたつのメンバー数人シャッフルされても絶対にわからない自信があります! スティーブン・タイラーと清川虹子の写真並べて「どっちがエアロスミス?」とか俺には聞かないで! 確か唇の分厚いほうだよなと言って清川虹子の写真を天高く掲げる可能性大(すいませんこれはさすがにウソでした)。
 一事が万事そんな感じなんで、食事でもラーメンならこの店、カレーならこの店と、ひとつのジャンルでも自分の好みにバッチリハマるものだけを偏愛し、手放しでホメまくり、自分が苦手なものは親の仇同然にボロクソこき下ろす、そういう人間です。だから俺に「掟さんってラーメン好きですよね」とか言わないで! 途端にツーンと眉間に皺を寄せ「それは、どういう意味で?」と妙なキレ方をする可能性大(これはよくやる)。

<なぜ名物はマズいのか? その理由はコレだ!>

 というわけで前回は自分の嫌いなものを叩きまくったんで、今回は過剰に大絶賛するやつです! 2000年代に入り、自分のバンドのツアーやDJ仕事などで地方に行く機会が増えました。地方での楽しみといえばその土地の美味しいものを食べること。で、当初はリコメンドされるままクッッッソマズい名物なんかを素直に食っては激しく三白眼になっておりました。当コラム前回(第15回)の“名物マズいの法則”をご参照いただきたいのですが、名物と言われるものでも新しい味の料理は大丈夫で、札幌のスープカレーは連れて行かれた店数軒がどれも当たり。影響力のある独自の味の人気店が1990年代中盤に続々オープンし、2000年代初頭には雨後の竹の子のごとく新店が山ほどできて、その頃から札幌の新名物になったように記憶しています。豊橋のカレーうどんのような観光協会や商工会議所が音頭を取って町おこしのために開発した料理とは違い、美味いスープカレー屋が同時期に複数出来たことで自然と名物化したものです。

「こんなの食べたことない!」が味わえるスープカレー

 スープカレーという新しい味に感動し、札幌と東京の有名店を色々と食べ歩きました。先述したように【自分にとってジャストな味】でないとダメ、ゼッタイ! な性分なので、札幌でも東京でも自然とリピートする店が絞られていきました。2000年代だと札幌では豊平公園駅の『棗や』、東京では学芸大学駅の『KARMA』が甘みのないシンプルなスープカレーで大変自分の好みど真ん中でありよく通っていましたが、棗やは2012年に店主が亡くなられて惜しくも閉店、KARMAは店主がプロスキーヤーでスキーショップ経営と兼業というかなり変化球な営業形態だったためもともと月の半分しかやっておらず、近所のたばこ屋のほうに経営バトンタッチしたもののご両親の看病のためそちらも2014年以降フェードアウト。もちろんほかにも好きなスープカレー屋はありましたけども(当コラム第3回でも書いた五反田の『かれーの店うどん?』はオリジナリティ強すぎてスープカレーのカテゴリに入れられない&店側も名乗ってないのでノーカウント)、「これだ!」という決定的なスープカレーにはなかなか辿り着けないでいました。
 それでは基本に立ち返ろうってんで、札幌では『村上カレー店プルプル』へ。すすきのの繁華街から程近い地下鉄東西線西11丁目駅から徒歩数分で立地もよく、過去にも何度か行っていた1995年創業の人気店です。スープカレーと言えばトマトや野菜の甘味が濃厚な店も多く、食品に甘みが入ることに対し盛大なファックの心を持つ俺としては当然そんなもんピスオフなわけで、甘みを押さえたシンプルなスープカレーを出すプルプルに自分の求める正解があるような気がして再訪しました。

 いつもはチキンレッグがまるごと一本入ったチキン・ベジタブルを注文していたんですが、仲のいい札幌のライブハウス『スピリチュアルラウンジ』の店長のカワイさん(NAHTのセイキの双子の兄)は一緒に行くと、どこの店でも必ずスープカレーに納豆を入れるわけです。その発祥がここ村上カレー店プルプルの『ナット・挽き肉ベジタブル』。プルプルのホームページによれば「鳥の挽き肉と挽割り納豆 オクラ なめたけがはいった 普通でないカレーです」とのことで、納豆の臭いが苦手な自分としましてはちょっとおぞましいな……と思ってたんですけども、プルプルのナット・挽き肉ベジタブルはなめたけとオクラも入っていて「これはスープカレーというよりもなんかオリジナリティ高すぎな別のネバネバ料理なのではないか」という気がしてきまして、ある日おそるおそる注文。すると、なんということでしょう! カレーのスパイスで納豆の臭みが打ち消されているばかりか、味に芳醇な深みを与えてとんでもないことになっているではありませんか! 甘じょっぱいなめたけの味も本来苦手なはずが、やはりスパイスの波に飲み込まれる中で粘り気だけでなく旨みのハーモニーを重層的に創出しており、「あり/なし」で言えば100%アリアリのアリアリ! 俺の大好きな唯一無二の味覚でスープカレーという新名物をネクストレベルへアウフヘーベンしてしまっていて、「こんなの食べたことない!」の味蕾上最高会議が開催されていたのです! こんな美味いならもっと早く気づけばよかった! 自分の場合さらに生卵もトッピングしてライスの上にぶちまけてズルズルのヌルヌルをズズズとすすり食いしてますズズズズうまー。

 村上カレー店プルプルでは毎年4月1日の開店記念日にエイプリルフールにちなんだ冗談カレーなる特殊メニューを発表してまして、納豆の入ったスープカレーは1997年の冗談カレーとしてお披露目されています。これは、もともとスタッフがまかないで食べていたアレンジメニューだったそうで、冗談カレーとして提供してみたところ評判がよくてレギュラーメニュー入りした、村上カレー店プルプルの顔とも言うべきオリジナルスープカレーです。このナット・挽き肉ベジタブルの旨さに気づいてからは、札幌でスープカレーの食べ歩きをやめ、プルプル一択に。もうプルプルしかないの。俺それでいいの。デスメタルで言えばほぼカーカスしか聴かないのと同じく、札幌でスープカレーといえば村上カレー店プルプルばかり行っています。札幌に3日間いるとすれば3日とも食べてますね、マジな話。
 ほかにも冗談カレーから生まれたレギュラーメニューとしては、サバ缶・カレー(缶詰のサバの水煮を大胆に投入、スパイスとトマトと青じそで仕上げていてやはりアリアリのアリ)、ラムキーマ青汁カレー(青汁という超クセのある味をも飲み込んでしまうカレースパイスって偉大だなと思うこと必至。チェダーチーズとヨーグルトもダメ押しで入った未知の旨さ)等がありますが、特殊な素材の味を活かしたスープカレーを開発し続ける店主・村上さんの手腕に心底脱帽です。
 村上カレー店プルプルのホームページ掲示板では村上さんが「ラムキーマ青汁カレーは仕込みが大変なのにすぐ無くなる。店が終わってから仕込む羽目になるので帰れない。こうゆうときに『くそっしねや』とかいってしまいます。今日も帰れません」と素直な気持ちを書き殴ってくださっています。頼まれる場合は感謝しながら注文しましょう(美味いからつい頼んじゃう)。
 ほかにも毎週土曜日には土曜スペシャルという季節の素材を生かしたメニューもやっています。自分が過去に食べたものではイワシのレモンカレーとシビれるキーマも非常に美味かつほかでは味わえないオリジナリティにあふれていて最高でした。食べたことのない美味いものが毎週食べられる札幌市民が本気でうらやましい。
 そしてプルプルといえば店のBGMがルーツレゲエなことでもおなじみ。看板の配色からラスタカラーですし、ここは札幌なのかジャマイカなのか食べてるうちにわからなくなるのも魅力です。カレーのスパイスで飛び、納豆となめたけのネバネバで飛び、レゲエダブのスプリングリバーブとテープエコーでさらにぶっ飛ばされる。これでサッポロクラシックビールでも飲んだ日にゃあ、天国すぎて帰ってこれなくなりますね。あああもういっそプルプル店内に住みたい。

ナット・挽き肉ベジタブル(生卵トッピング)
村上カレー店プルプルの看板前で。今年の1月。次はいつ行けるかなぁ……。

村上カレー店プルプルのホームページ。コラムにはナット・挽き肉ベジタブルの簡単なレシピも。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~pulu2-cr/menu.htm

掟ポルシェ 通販サイト開店!

『掟ポルシェ泥棒市場』https://okite.theshop.jp/

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。