【掟ポルシェの食尽族】第17回:低価格でハイクオリティ! サブカルの聖地・中野の美味しい店

連載・コラム

[2020/12/2 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第17回:低価格でハイクオリティ! サブカルの聖地・中野の美味しい店


30年住んだ中野を離れる記念に、美味しい店をご紹介!

 私事ですが、諸事情により6年間住んでいた福岡県を離れ、来春からまた東京に住むことになりました。修羅の国・福岡も離れるとなると急にプチ里心めいたものが発動し、いまのうちに行けるところに行って、食べたいもの食べとかないととGo To徒歩圏内メシ活動しております。安全食堂のラーメン(※第6回参照)、2ヶ月くらい毎日食ったらもういいやってならないかな……いや無理だなそれだけは。
 で、東京引っ越してきたら家族で住むんで多少郊外の広めの家に住まねばならず、1990年に住み始めて今も仕事場としてマンションを借りている中野からも引っ越すことになります。北海道の実家よりもなげーこと住んだわけですから、そりゃあもう東京の悪口言う奴は心の中でボッコボコですよええ心の中だけで(※一部東東京の住民青竜刀携帯率が高いナチュラルにヤバい町の悪口は仕方ないと思う)。
 中野という街に住んで30年。自分でも引くぐらい長いこと住んだので、中野近辺の飲食店の移り変わりも目の当たりにしてきました。みなさんご存知のように、今や中野といえば秋葉原に次ぐオタクの第二聖地。中野ブロードウェイに数店舗あったまんだらけが90年代には次々増殖していって、ブロードウェイ3階だけでなく2階4階にもジャンルに特化した品揃えの専門店舗が多数できました。マンガの古本やアニメグッズの中古、セル画等を求めて世界中からオタクが集結、中央線に根づくサブカルチャーと相まって、2000年代には中野はオタクやコレクターの集う街になりました。

<なぜ名物はマズいのか? その理由はコレだ!>

 そんな街の食には傾向があります。それは“安い飯屋しか流行らない”。コレクションに所持金を全額ブッこむつもりでやってきたオタクは飯代を切り詰めるでしょうし、もともと学生やバンドマンなどのひとり暮らしが多くエンゲル係数低めな民が住むところです。故にちゃんとした寿司屋ができてもあまり客が入らず数年で店を畳み、代わりに中野サンモール商店街には回転寿司の『海鮮三崎港』が3店舗もあってどこも盛況だったり、食にあまり金をかけない傾向にあります。15年ほど前にはワンコインでうな丼が食べられる『宇奈とと』が繁盛していたり、味にこだわった高級感のある個人店よりも、安くてそこそこ美味しいチェーン店が人気という感じでした。
 食は二の次だった中野ですが、1990年代後半に『青葉』が人気ラーメン店になり、2000年頃から軽くラーメン激戦区の様相を呈し、それに伴って飲食店の全体的なレベルも底上げされていきます。2010年代になるとここ美味いから行こうよと友人を誘えるいい感じの店が増えてきて、居酒屋なども中野民の懐事情に見合ってなおかつ美味しい店がここ数年いくつもできましたんで、せっかくなので中野を離れる記念にみなさんお教えしようと思います。俺が行ける機会減るからもう混んでも問題ないもんね!

 まずなんと言ってもここがおすすめです。

中野でオススメできる店・その①

『ビストロ&ワイン酒場 Tsui-teru!(ツイテル)』

(東京都中野区中野5-36-5ヴィラAK2階 JR中野駅北口徒歩3分)

 熟成肉のステーキが比較的安価で食べられる店で、低価格にこだわる中野民の要求に応えるお値段、でも味はハイクオリティということで大人気です。店のエントランスから客席に抜けるところに肉の塊を一定の温度でドライエイジングするための巨大な冷蔵庫があり、自分がこれから食べる肉を見ながら入店するので、もうこの視覚効果だけで期待感爆発寸前。店舗設計の段階で勝ったも同然な食欲そそり具合。ここを通って肉食べないで帰ったとしたら多分その人はベジタリアン。そんくらい抗えない。

 おすすめメニューは当然牛・豚・鶏の熟成肉ステーキ。通常メニューに記載されているものに加え、その日だけのいい部位の肉もあります。メニューにあるもので言えば、『長期熟成アンガス牛の肩ロース炭焼き100g』『長期熟成やまと豚のロース 炭焼き100g』『大山鶏丸ごと1羽のロティサリーチキン』がまぁすんばらしくおいしいです。熟成に数ヶ月かけた肉を50分程時間をかけてじっくり焼いていきます。熟成肉のドライエイジングステーキは最近流行っていて割とどこでもあったりしますが、値段が1,500円程度と安価にもかかわらず絶妙な調理法を施された肉が旨みのカッタマリでうっわいい店みっけた!という気持ちになるでしょう。個人的に一押しはやまと豚。すりおろした生山葵を多めに、岩塩を少しだけ付けていただくとご褒美感マジハンパないです。醤油タレもありますが、そっち付ける場合も生山葵とのセットはマストです。牛は脂少なめの赤身肉の旨みが堪能できます。ロティサリーチキンももちろん不可欠なんで、あの、肉全種いっちゃってください。美味いんで多少量あっても食えるし。

『長期熟成アンガス牛の肩ロース炭焼き 100g』と『長期熟成やまと豚のロース 炭焼き 100g』)
一押しのやまと豚!

 熟成肉ステーキが焼けるまで時間がかかるので、それまでサイドメニューいっときましょう。毎回頼むのは『キノコとブルーチーズのとろとろクリームグラタン』。ブルーチーズの芳醇なうま味と酸味が当然のことながらワインとベストマッチ。ツイテルはサービスで出てくるパンも美味しいのですが、肉が焼ける前にこのグラタンとパンでお腹いっぱいにならないように注意が必要です。小学生の頃年度末に出す文集で「好きな食べもの:グラタン」と書いていたベストグラタニストの俺が言うことを信じるか信じないかはあなた次第(ハローバイバイ風に)。ほかには『名物! 田舎風豚肉のパテ』なんかも割といい感じ。このふたつをつまみに、熟成肉の分の胃のスペースを確保しつつベロベロにならない程度に酒飲んで待ちます。
 で、この酒がまたうまいです。ビストロ&ワイン酒場というぐらいなのでツイテルではなんとしてもワインを飲みたいところ。その日のオススメボトルワインがいろいろあってワイン好きにもたまらないのですが、超絶一押しは一番安い樽生ワイン。なんせバカスカ売れる店のワインですから味が新鮮。グラスで480円、これで十分、というかこれがいい。ここはひとつ巨大なデカンタで頼んで水みたいにカパカパ飲みたい。いつも樽生ワインの赤をカパカパ飲み、熟成肉のステーキをバクバク食い、気づいたときには酔いつぶれて店内でグーグー寝ることもしばしば(超迷惑)。い、いや、寝そうになったらすぐ店出るようにしますすみません。

 開店以来大人気でなかなか予約が取れない店でしたが、このコロナ禍で時間帯によってはすんなり入れてしまうように。今が狙いどきかも。このご時世で、ランチ営業やテイクアウトも始めた模様ですが、ツイテルの真価を知るためには、ディナータイムに行って50分じっくり時間をかけて焼いた熟成肉を食べていただきたい。あと、人気がありすぎて本店が混み合いすぎたため多少味の傾向を変えた支店が中野駅北口側に何店舗もオープン。とはいえ、俺が食べた中ではブッチギリこの本店的なツイテルが最強だということをお伝えしておきます(あくまで個人の感想です)。とにかく肉だ黙って肉を食え話はそれからだ。

中野でオススメできる店・その②

『にぎにぎ一 中野本館』

(東京都中野区中野5-61-11 JR中野駅北口徒歩2分)

 先述しましたように、中野といえば高級な料理がなかなか流行りません。長いこと寿司屋不毛の時代が続き、いい店ができても数年で店を閉めるパターンが多くなっていました。そんなプアー&チープな街中野に9年ほど前突如彗星の如く救世主寿司が爆誕。それが「にぎにぎ一(にぎにぎいち)」です。立ち食いで7人も入ればいっぱいな店内、加えて店の外に簡易テーブルが4つ。満席で15人と紹介されていますが、15人入ったらパンパンすぎて、先に入ったお客さんが気を利かせて勘定シメてしまうくらいのミニミニっぷりです。

 にぎにぎ一の人気の秘密は安さと置いてるネタのおもしろさにあります。一貫100円からお寿司が食べられる回転寿司も真っ青の低価格に加え、ネタが都内の寿司屋ではあまりお目にかからない珍しいものばかり。豊洲市場だけでなく、全国数カ所の魚市場から直送されてきた珍ネタがお品書きに踊ります。春先のある日のネタを紹介すると、長崎五島列島直送で『ちぬ(100円)』『おじさん(200円)』『めじな(200円)』。どんな味がするのか想像するだけで楽しいですし、シャリが小ぶりなのでその全種類食べても胃袋も財布も両方大丈夫。赤酢を使ったシャリ、煮切りや塩が振られて出てきてそのままいただける細かく仕事のしてあるネタ。本当にこの値段でいいのか心配になるほどのクオリティで、中野滞在時はしょっちゅう通ってます。ガッツリ1軒目から行くもよし、どこかで飲んだ帰りに2軒目3軒目でもよし。日本酒もおもしろいのが多少ちゃんとした値段でインストックしてますが、トリスのハイボールが300円で飲めてしまうのも“飲む寿司屋”としてポイント高し。安価な店しか生き残れない中野で9年もやっている秘訣が随所にあります。店が狭くて土地代が余計にかかってないことも安さを担保してくれる理由でしょう。一応言っとくと、家族連れで入店できるような雰囲気ではないので念のため。ひとりふたりで来てサッと食ってパッと帰るに適した、ファストフードとして誕生した寿司本来の意味を実感できるいい店です。荻窪と西荻窪、東京駅八重洲北口にもあるようですが、そちらは未確認。中には座って食べられる店舗もあるようです。
 とりあえず2軒ほど、中野で行きつけのいい店をご紹介しました。本当はほかにもとびっきりのいい店が中野にあるんですが、諸事情により教えられないので、どうしても知りたい方は会った時直接教えます! あー、結局中野住まなくなった後も通っちゃいそうな気がしてきた……。

とある日のお品書き。1番高いのがしゃこ600円ってどうかしてる
しゃこ600円、小肌200円。好きな食べものを聞かれて答えるもの2種類
いわし100円。きっと何かの間違い
いわしの丸干しも100円
海峡サーモン300円
生本まぐろ頭肉の炙り300円
福岡で撮影された著者近影!

掟ポルシェ 通販サイト開店!

『掟ポルシェ泥棒市場』https://okite.theshop.jp/

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。