【掟ポルシェの食尽族】第18回:2020年に食べた一番美味いもの〜『人と羊』ひつじそばと北海道ジンギスカン文化〜
自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!
第18回:2020年に食べた一番美味いものはこれしかない!
北海道民は一家に1台ジンギスカン鍋を持っている
私、北海道出身です。あの、「大阪府民の家庭にはソウルフードであるたこ焼きを焼くための穴ぼこがいっぱい開いた鉄器が必ずある」っていいますよね。それの北海道Versionが「ジンギスカン鍋が各家庭に必ずある」となっております。現代はどうか知りませんが、少なくとも昭和末期はそれが当たり前でした(話の前提が恐ろしく古い)。
北海道に生まれてしまうと、本当に事あるごとにジンギスカンを食べることになります。林間学校とか炊事遠足とか言うんでしょうか、本来なら班に別れてカレーとか作って食べますよね、あれがカレーじゃなくてジンギスカン。夏場、海水浴行くと泳いでお腹すきますよね、海の家で食べるなんの変哲もない味のラーメンがこれまたおいしいところですが、それも鉄板持ってきて焚き火してその上でジンギスカン焼いて食ってシメにうどんブチ込んでジンギスカンのタレで焼きうどん風にしたやつを食べる方が一般的。兄貴が将来嫁になる女性を連れて初めて実家を訪れた→ハイ、ジンギスカンで和気あいあい→即結納とか。もうとにかくなんかあればジンギスカンで、年中ジンギスカン鍋フル稼働してます。バラクーダーの『日本全国酒飲み音頭』だと酒を飲む理由は月イチでやってきますが、ジンギスカンを食べる理由はもっと頻繁にありますし、最悪理由がなくたって食べるんで。そんくらいマジで日常的に羊肉を摂取しているのが北海道民です。いや、ウソじゃなくてマジで。
<低価格でハイクオリティ! サブカルの聖地・中野の美味しい店>
その昔、ジンギスカンといえばラムやマトンのロール肉を食べるものでした。羊は牛や豚などに比べて小さく、部位一個一個切ってくとスライスの手間が他の畜肉に比べて何倍もかかるという理由で部位を集めて丸め、ひとつの大きな塊にして冷凍し、それをスライスしたもののことを、長いこと私たちはジンギスカンとして認識していました。「ジンギスカンは羊独特の臭みがあって苦手」と思っていらっしゃる方は少なくないでしょうが、冷凍技術が発展していなかったひと昔前のロール肉スライスはまさにそんな感じの味だと思います。
当連載で何度も書いているように、食品の品質保持技術はここ数年で目覚ましいまでに進化しておりまして、ジンギスカンに関してもいまや専門店でロール肉スライスを提供するところは少数派で、鮮度が良く臭みもないものが食べられるようになっています。北海道や信州の牧場から直送されるサフォーク種の生ラム肉を提供する店もあり、これまでのロール肉が何だったのかと思うほど旨味だらけで素晴らしいです。
日本で消費されている羊肉のうち、国内で生産されているものは1%にすぎず、99%は海外から輸入したものだと言います。国内産の生羊肉はもちろん美味しいのですが、海外から輸入したものでもチルド&フローズン技術が著しく向上したため、遜色がないものがほとんどです。ロール肉の半分凍った状態で出てくる羊の臭みが強いジンギスカンも個人的には嫌いじゃないですが、現代のジンギスカンとは別物と言っていいでしょう。新鮮なサフォーク種の生ラムジンギスカンの旨味はもう夢に出るほど。眠れなくて仕方なく数える羊より、寝てから夢で見る羊の方がより魅力的。そして現実に食べる低温熟成チルド生ラムは最高。
札幌に行くとよくジンギスカンを食べます。先述したように羊肉の品質保持がハイレベルで保証されるようになりましたから、有名店でなくともいまやどこもそこまで肉質の当たり外れがなくなり、故にどこの店がオススメってのも特にないです。ロール肉主体の店とタレに漬け込むタイプがメインの店は今さら行く必要を感じませんので、生ラム肉を置いてるところで毎回いろんな店に行ってます。個人的によく行くのは、すすきので昔からあるところなら『味の羊ヶ丘』、『めんよう亭』とか。味の羊ヶ丘では基本中の基本のジンギスカンが味わえます。観光地のど真ん中にあるのに割とフラッと行ってもすぐ入れてしまうのもいいです。めんよう亭は俺があまり得意ではないザ・気が置けない店構えなんですが、そういうのが好きな人には最適。段ボールが置きっぱなしの雑然とした店内といい、余計なものがないシンプルなメニュー構成といい、カップルがデートコースに使ったりしない感じが素敵です。もちろん肉の味も一級品保証済み。また、新しめのところでは『兜ひつじ』がレベルが高いです。北海道内19箇所の提携牧場から一頭買いした羊の希少部位が食べられるので、ちょっといい羊料理を食べたいならここがいいと思います。参考まで。
2020年に食べた一番美味いものはこれしかない!!!
さて、ここからが本題です! 『耳マン』編集部から出されていた今月のお題は「2020年、今年食べた一番美味いものは?」。それなら簡単、答えはひとつ。
……『人と羊のひつじそば』、これしかない!!!!!!!!
荻窪にあるラーメンとかき氷の店『ねいろ屋』、そこで毎週月曜夜だけ間借り営業しているラーメン屋が『人と羊(ひととよう)』です。店名はもちろんエイヤーなんちゃらのあの人にひっかけてあるわけですが、この店名からして人を食っていて一筋縄ではいかない感じ、当然大好物の予感しかありませんね。そうなんです! 現在福岡在住の私でございますが、東京での仕事を必ず月曜にかかるようにスケジュールを切り、月曜夜はどんな芳しい仕事が入りそうになっても頑として断り、荻窪駅に降りたった瞬間からサンキュー先生並のキリッとした早足で人と羊を目指し、乱れた息を整えながら開店を待つ行列に並びます。心がはやるあまり開店1時間以上前に着いてうっかり鍵開け(アイドルイベントの物販で一番最初の客になること)してしまったこともあるほどです。ひつじそばの日程に合わせて仕事を組む、それが掟ポルシェの2020年。完全におかしなことになっています。好きすぎて虜。
最初に人と羊のひつじそばを認識したのはTwitterのタイムラインでたまたま流れてきたラーメン紹介サイトのレポートでした。
「羊出汁のラーメンなんてあんのか!?」
当時まだ神保町にあった人と羊の羊中華(羊出汁の醤油ラーメン)の写真を見て、「これ絶対俺の好きなやつだ!」と一発見で理解。長年美味い飯を貪欲に求めてサバイブしてきた偏った経験値と、北海道出身羊肉食文化育ち故の羊勘で「俺が食わなくてどうすんだ!?」と画像数枚見ただけでムラムラが止まりません。早くこれ食べに行きたい! 頭がおかしくなるほどに俺の体がひつじそばを求めている! なんですが、人と羊の存在を知ったときには既に諸事情により4月18日で移転により一時閉店が決定済み! ギィイイヤアアアアッッ!!!! なんてこった! しかも4月16日から新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急宣言が出てしまい福岡から東京へ県を跨ぐことができず、とんこつの故郷福岡の地から血が出るほど指をくわえてリツイートするのみ……。結局正式な移転先が決まるまでの間、荻窪のねいろ屋に間借り週イチ月曜夜のみに形態が変わり、6月から営業再開。人々が自粛モードに入っていた時期だと思いますが、当方ひとり勝手に羊自粛を強いられておりました。あれは辛かった。
で! 人と羊になんとかようやく行けたのが7月13日。夢にまで見たひつじそばです。もんのすごいソワソワして入店、恋焦がれる乙女の気分。サーチアンドデストロイならぬ注文アンド着丼。ひと口食べて予想通りいや予想以上! モロ自分好みどストライク! 羊のコンソメスープ! どこにもないここにしかない味! シンプルに羊充できる最高すぎるスープ! スタイリッシュな細麺をすするともう全身蕩けそうううう!!!!! 殺して! いっそ殺して!!!(大仰な表現で失礼しますいやホントに美味いんで)
人と羊店内にあるメニュー看板の商品説明では、「ラムと鶏の白湯を大量のラムひき肉で澄ませたスープにラム肩ロースチャーシュー、スパイシーなラムテリーヌの羊づくし。ドライトマト、モロッコいんげん、パクチー、玉ねぎも乗ります」とあり、具材もラグジュアリー。ラムテリーヌの味と食感が無国籍にして上品。ぎっしりした羊の挽肉がスパイスと絡み合って舌の上で終わらないサンセットを紡ぎます。何を言っているのかわからないと思いますが、自分でもよくわかっていないので大丈夫です。追加のトッピングで入れたマトンティッカも含め、ラーメンの上で羊料理のフルコースが楽しめるような贅沢な一品でした。1杯1,370円というラーメンにしては高めな値段でも、この内容なら逆に原価が心配になるほど。いいんですかこの価格でこんな美味しいものいただいちゃって?(また大仰になってきましたが自分ではどうすることもできないのでまぁ呆れるなりなんなりしてくださいしょうがないのもう)
人と羊のもうひとつの魅力は、毎週変わる限定ラーメンです。メインメニューのひつじそばだけでも中毒性が高いのに、毎週違う羊出汁使用の美味いもの出されちゃあもう俺の月曜は人と羊に捧げるしかありません。
神保町時代から人と羊では毎日のように新しい味の限定ラーメンを出していた模様。店主はとんでもない人です。もう指で触れるもの全部美味しくなる魔法とか使ってんじゃないでしょうか。荻窪に移転後も週替わりで限定ラーメンを出し、未知の旨さを更新していきます。そうです、通うしかないのです。
これまでに食べた中で特に美味しかったのが『東風そば』。羊白湯に干しダラの戻し汁とままかりの煮干しが合体、ひと口食べてなんじゃこりゃあああ!!!という驚きと感動が押し寄せます。具材にはラムと干しダラのコロッケが乗り、全体に菊の花が散らしてあってこれはもう食べる雅。追加トッピングのゴーダチーズと干しダラのチータラオムレツも涙が出るほど美味く、具材をラーメンと一緒に食べると美味すぎてもうこの時間が永遠に終わらないでくれと願わんばかり(ほどなく食べ終わりました)。どんな味かあまり想像がつかないと思いますが、強いて言えば超豪華なシーフードヌードル食べてる感じ(途端に安い表現で失礼します)。
そしてこの東風そばという名前でピンと来た方もいるでしょう。店内BGMにはYMOの『東風(Tong Poo)』が鳴り響いております。店主はエレクトロミュージックを中心とした音楽マニアでもあり、楽曲やアーティストからインスパイアされた限定メニューも色々出しています。東風そばと一二を争うほどウマウマだったのが『ひつじそばPierre』。牡蠣を使ったラーメンということで、店主の好きな電気グルーヴのピエール瀧さんにちなんでいます。そう、「ピエールかき」ってことですね! おなじみ(俺に)のひつじそばの上に、羊出汁にサッとくぐらせた牡蠣が3つオンフロート。手製のオイスターソースもスープの上に乗せられていますが、この(羊出汁+オイスターソース)という動物系変化球と魚介系変化球が合体し、味蕾に向かって侍ジャイアンツ最終回感すら感じる味覚未曾有のミラクルボールが飛んできます。「こんなの食べたことがない!」という未知のうま味を求める俺にとってど真ん中絶好球。店を出て小さい声で「うまかった…」と呟いてしまう俺内最高賛辞の出るやつでした。あーこれもまた食べたい。
2021年以降、本格的に移転&正式に出店する予定があるそうですが、当面は荻窪ねいろ屋で月曜夜のみの間借り営業が続く模様。最近では人気店となってきまして行列に並ぶこと必至、近隣からの苦情対策でふたり以上で来店お断りのおひとり様営業実施中なので、これを読んで食べてみたいと思われた方、店主になり代わりおひとりでの来店に何卒ご協力お願いします(詳しくは人と羊公式Twitterをチェック)。
2020年に引き続き、2021年に食べた一番美味いものも、この分だと人と羊のラーメンになりそうです。全然それでいい。
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