【掟ポルシェの食尽族】第23回:カップラーメン大好き! だからこそ気になる“お湯の線”の位置
自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!
第23回:カップラーメン大好き! だからこそ気になる“お湯の線”の位置
カップラーメンの“お湯の線”はなぜあの位置なのか
カップラーメン&インスタントラーメンが大好きです! もうね、いつ食べてもいいですよね! 親の葬式、子どもの林間学校の食事、クリスマスのお祝い、どんなときでも対応可! 出てきた瞬間ちょっと表情が曇るかもですけど、美味しいのは確かなんで! 結果オーライ、だと思う! 「こんな粗末なもの、人生のメモリアルな場面で食えるか!」と怒り出す多少頓珍漢な輩には、ラ王かマルちゃん正麺を! 本格的なんで多分大丈夫! えびす顔確定!
ま、冗談はさておき。みなさん、カップ&即席ラーメン食べてますか? 親が無農薬野菜以外食べさせないとかいう極端な家庭に育ってない限り、まず嫌いな方はいないかと思われます。圧倒的に意識が高くないノンポリティカルな親の元で育ち、倫理観も割とゆるい感じの俺としましては、朝食にカップラーメンとか全然普通です。厳格な家庭で育った嫁には信じられない様子で三白眼で見つめられますけども。
食の偏り恐れず丸出しコラム☆『掟ポルシェの食尽族』。今回は、カップラーメンについてです。まず、大前提としてこの話はしておきたい。
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「カップラーメン、あれ、カップの縁の規定線通りにお湯入れると味薄いですよね?」
そう聞くと、返ってくる答えは当然バラバラです。「アホか、線よりかなり上に入れないと濃すぎて食えんわ! お前バカ舌か! 味覚障害だから病院行け!」なんて人も当然いるでしょう。思い切り同意してくれる人もいれば、線のところで丁度いいけど何が言いたいの? って人もいます。そういうもんです。当然です。
カップラーメンのお湯、線のところ丁度に入れるか、線より上に入れるか、線より下に入れるか。個人差があって全然いいはずです。自分の口に合うようにカスタマイズできる、それがインスタント食品の利点と言えるでしょう。そんなもん好きにすりゃあいいんです。
では、俺も好きにさせてもらいます! 自分的には、カップの縁の規定線通りにお湯入れると味が薄くて食えたもんじゃありませんが、なぜあの“線”はあの位置なのか、ちょっと考えてみます。
単純に言うと出身県の基本的なラーメン屋の塩分濃度の話かと思います。1988年、北海道から関東地方に出てきて、東京の何気ないラーメン屋でラーメンを食べて、そのスープの薄さに絶句しました。1980年代末、北海道のラーメンのスープは総じてかなり味が濃く、東京にある北海道風のラーメンチェーンですら味が薄すぎて、東京ナイズされた札幌風ラーメンに激しい違和感を感じたものです。
これはあくまで推測ですが、カップラーメンの味の濃さの基準はカップラーメンができた時代の、東京の基本的なラーメンの塩分濃度を基本にしているのではないかと想像します。当連載の第13回(https://33man.jp/article/column43/008980.html)でも触れていますが、昔からある東京のラーメンは味がメチャメチャ薄く、塩分濃度が濃いラーメンで慣れ親しんだ土地の出身者からすると、それはもうラーメンのスープを超え、“多少茶色みがかったただのお湯”。
顕著なのは連載第13回でも取り上げた、今も地元民に愛される某有名店。某動画サイトにこの店の紹介動画があり、ラーメンYouTuberとラーメンミュージシャンがその店を訪ねてラーメンを実食する模様が、食べたことがある俺からすると実に滑稽で。「あったまるんだよなぁ」とか、温度の話に逃げて味の評価を避けたり、「ほかのメンバー連れてきたこともあるけど、みんな否定するよね」とおもいきり不評だったのに「ベロベロで酔っ払ってるから」と周囲の低評価を酒のせいにしたり等、なぜここを勧めるのか意味不明で不気味。先日放送された『アメトーーク!』でもその街に住む芸人がよく行く店として取り上げられていたものの、「朝、飲んだ帰りもやってるから」とか言うだけで、味について説明するコメントは皆無で爆笑しました。それでも地元民からだけは愛されていて、食べログでも高評価。これが何を意味するかと言うと、東京のラーメンの味はもともとすごく薄かった、そしてそれで慣れ親しんだ地元民はその薄味を郷愁とともに愛しているということ。結局口に合うか合わないか、それしかないのだと思います。
つけ麺発祥の店として有名な超有名某店のラーメンも実は“お湯スープ”。バリバリ味激薄で、間違ってうっかり注文してそのあまりの無味っぷりに1杯食べきるのがやっとでした。「そんなこと言って、出汁の風味はするんでしょ?」と思いたいですよね? それがですね、出汁すら希薄で、どこで旨味を感じているのかまったく理解できないのです。それでも、ここのラーメンを好んで注文するお客さんはたくさんいます。東京ネイティブの方には、昔から続くこの慣れ親しんだ塩分希薄ラーメンこそが落ち着く味なのであり、それをインスタント食品にも反映させた結果があの“お湯の線”なのだと思います。
“お湯の線”ができた時代から、東京のラーメンはかなり遠くまで来ました。現代のラーメンは他店との差別化をかなりハッキリ行おうとしてか、パンチを求めて味が濃くなっているものが多いです。良い言い方をすれば、塩分濃度にエンタテイメントの可能性があり、私たちはそれを楽しむことができるということでもあります。極端な例ですが、塩分を冗談のように強化した『一条流がんこラーメン 総本家』の『悪魔ラーメン』は実に文化的な1杯と言えます。店主がスープの完飲を止めるどしょっぱスープのラーメンは、ファンと言うか中毒者が続出するのも当然。過剰な塩分濃度に食べると脳から変な汁が出ることを実感できるでしょう。悪魔ラーメンほどではなくても、東京発の新店舗の多くは、東京に古くからある薄味のラーメン屋に比べて塩分は2倍程度あるかと。ラーメンという食品は人々の記憶に残るべく、常に進化を遂げているといえるでしょう。
東京のラーメンの塩分量の変化によって、こんな問題も出てきます。
【実在するラーメン店の名前が付いたカップラーメンでタテ型カップのものに当たりなし】
コンビニやメーカーと有名店のコラボカップラーメンは、「あの店の味が、あの店まで行かなくてもカップで味わえる!」と思って購入するわけです。なのに、大抵の場合店の味とは似ても似つかないことが多く、そのほとんどは店のよりも味が薄いのです。そんなときは規定の線よりかなり下になるよう少なくお湯を入れれば濃くなり、店の味に近づけることができるのですが、線のギリギリまで麺が入ってるタテ型カップラーメンだとその技を使うことができません。なんでそんなことが起きるのかというと、あの“お湯の線”の位置と、“カップラーメンの塩分濃度として万人が適切だと思うライン”が相当昔に決められたためではないかと推察しています。
店名を冠したカップラーメンをリリースするラーメン店には2種類あるんだと思います。
1:店の味をカップラーメンでできるだけ再現し、店の味をより多くの人に知ってもらい、知名度を向上させた上で新たな顧客を呼び込もうとするラーメン店
2:店の味をカップラーメンで再現することは難しいと考え、“〇〇ラーメン監修”という名目で店の味とは別物の美味しいカップラーメンを作り、知名度を向上させて新たな顧客を呼び込もうとするラーメン店
ラーメン店の名義使用ロイヤリティは年間にして数10万円程度だそうですので、実売による売上を期待するものではなく、店名を冠したカップラーメンにあるのは広告効果のみです。ほとんどのラーメン店のカップラーメンは1を念頭に作られ、コストや製造工程等の諸問題、また、製造メーカーによるカップラーメンの塩分濃度の理想等を考慮していって結果的に1に近づいたり、仕方なく2に落ち着いたりするものだと思います。とはいえ、店の味を先に知っている場合は当然店の味の再現度を求めて買うわけですから、2だったときのガッカリ感はハンパないのです。「俺の大好きな〇〇ラーメンの味が誤解されてしまう!」と心配します(余計なお世話、承知致しております)。再現度が低い場合の多くは味が薄いというのが気にかかるので、お湯を少なめに入れれば多少店の味に近づくのですが、タテ型カップラーメンは割と線ギリギリまで乾燥したラーメンが詰まっているので、お湯少なめマジックが使えません。今ではどんなに好きな店のカップラーメンでもタテ型なら買わないと決めています。万人受けする塩分濃度はここ数10年でかなり変わってきていると思いますし、何か非常にアンバランスだなぁと。自分が好きな有名店のカップラーメンは、できればどんぶり型でリリースされてほしいものです。
これまでに食べたベストカップラーメンはコレ!
最後に、レコメンドカップラーメンをいくつか。「これまでに食べたカップラーメンの中でベストはなんですか?」という問には、こう答えます。『都ホテル東京 担担麺(エースコック)』です。10年以上前に終売している商品ですが、未だにこれを超えるものはありません。シェラトン都ホテル東京に現存するチャイニーズレストラン四川のシェフ橋本暁一監修、添付された調味料の袋の大きさからもわかる辣油の刺激的な辛味と濃厚な芝麻醤のコク、そしてアクセントとして際立つ酢の酸味! 四川で実際に出されている担担麺の豪奢に迫る味が、発売当時270円でどこのコンビニでも売られていたのはマーベラスとしか言いようがありませんでした。店の味の再現を第一義に制作されたためか、どんぶり型カップに規定量のお湯を注いでもその濃厚な味わいは薄れることなく、攻撃的なまでの辛い&酸っぱいを実現。由緒ある中華名店の味にして最高に攻めていて、店名を冠したカップラーメンかくあるべしとの思いを強くしたものです。今となっては確認のしようもないので恐縮です!
現存するラーメン店カップでは、こちらをよく食べています。『元祖長浜屋協力豚骨ラーメン(マルタイ)』。元祖長浜屋のとんこつラーメンのシンプルな旨味を再現したスープは、福岡在住時も東京に移住した今も手軽に“豚骨充”できて重宝します。麺においては特に、元祖長浜屋の味を完璧に再現しているというわけではありませんが、東京の下手な博多インスパイア豚骨ラーメン店で食べるよりもこちらのほうが美味しいとまで思うゆえ、まとめ買いして常備しています。紅生姜は添付のでは足りないので自前で買ってきたやつを入れ、苦手な胡麻は使わないので、未使用の胡麻と紅生姜がたまる一方。でもそれがベストな食べ方なので仕方ないです。
カップ焼きそばでは『日清やきそばU.FO.(日清)』一択。そのまま食べてももちろん美味しいですが、当連載第12回(https://33man.jp/article/column43/008836.html)にも書きましたように、李錦記の潮州辣椒油を大さじ1杯ぶち込んで食べるとギトギト辛味天国でたまりません。その上さらにマヨネーズなんかも絞るとスーパージャンクなデブ料理完成。太れなくて困ってるあなた、これ食ってすぐ寝るのを1ヶ月程度繰り返すと手軽にスーパーサイズミーできるはずです。ただし健康被害があっても当方は責任取りませんので! ってことで、原稿終わりましたのでちょっくらカップラってきます! 今日はどれにすっかな……。
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