【掟ポルシェの食尽族】第5回:「バリカタ」と「やわ」〜福岡のオリジナルすぎる麺文化~前編

連載・コラム

[2019/11/7 12:00]

 香川県の讃岐うどんは麺が硬いほうが“通”であるのに対し、福岡のうどんは麺が柔いほうがよりハードコア(「お前わかっとるばい!」)であるとする傾向があります。一部の店舗の話で恐縮ですが、俺が天敵とまで呼び恐れているチェーン店に某Mうどんというのがありまして、ここは讃岐うどん界のディストピアです。某Mうどんでは、麺の茹で方が選べます。“やわ・中・かた”と茹で加減が3タイプありますが、ここではほとんどの客が“やわ”で注文します。現在俺が住んでいる福岡の嫁の実家から一番近い距離にある飲食店がこの某Mうどんであるため、一度うっかり入店してしまったことがありまして、茹で加減を聞かれて当然やわいうどんなんておぞましいもの食べたくないので“かた”と注文。しかし、出てきた麺はぶよんぶよんのやわ! なんじゃこりゃああ!! 店の人に、あの、自分かたで頼んだんですけど……というと、「すいませーん、みんなやわ頼むから間違えちゃいましたー」と……。そのときは嫁のお父さんお母さんも一緒でしたので、かたで作り直してくださいと言える空気ではなく、しょうがないので“やわ”で食べることに。で、これが想像以上に地獄で。ひと言で言えば「雑煮の餅をうどん状に伸ばした感じの食感」! 俺がもっとも嫌いなやつ! うげええええやっわあああああいいいいい!!!!!!! でも嫁の親も一緒にいる手前食わないわけにはいかない……仕方がないので、ゆっくり時間をかけて食べることにしました。ここで、某Mうどんを食べたことのある人にはおなじみの“ある現象”が起こります。注文したうどんが出てくるとき一緒にやかんが置かれ、そこに入ってる出汁(これ自体は出汁気があっていい味)を追加して食うわけですが、やわらかく茹でた麺がこの出し汁を吸い込み、どんどん増えていくではありませんか……! なんじゃこりゃあああああ!!! 食っても食ってもうどんが減らねええええ!!!! この店を訪れる人は少なからずあの歌を思い出します。

 ♪ポケットの中にはビスケットがひとつ
 ♪ポケットを叩くとビスケットがふたつ
 ♪もひとつ叩くとビスケットはみっつ
 ♪叩いてみるたびビスケットが増える
 ♪そんな不思議なポケットが欲しい

 ……あるよ! ここに! ビスケットじゃなくてうどんだけど! 食っても食っても一向に減らねえんだよマジで! なんだこれ魔法かよ(泣)!
 うどんを食べていて気が遠くなったのははじめてです。結局全部食べ切れたかどうかも思い出せません。あまりの恐怖体験にきっと自分の心が記憶に蓋をしているのでしょう……。まぁ、某Mうどんはラーメンで言えばラーメン二郎みたいなものであり、やわやわうどんの極北であって、これをもって福岡のうどんの代表例とするのはどうかとも思いますが、福岡県民がうどんの麺にやわらかさを求めているのは確かです。つくづく味覚の合わない土地に住んでしまったなと思います。

理屈はわかる、食うのは無理だけど

 何故、福岡のとんこつラーメンは固茹でが粋であるのに対して、福岡のうどんは柔いのがデフォルトになったのでしょう? 福岡に住み始めてしばらく疑問でしたが、自分のイベントによく来てくれる福岡の歴史に詳しい方が教えてくれました。これら麺類はその昔市場で働く人たちがよく食べるものであったと。つまり、時間をかけずにササッと食ってすぐ仕事に行ける方がいい“ファストフード”なので、ラーメンの麺は細麺にしてサッと茹でてすぐ食べられるバリカタがいいとされ、うどんは茹で置きが基本だったためやわらかい食感のものとして認識されるようになったのだと。なるほど、理屈はよくわかります。食うのは無理だけど。
 あと、福岡の人がラーメンではなくうどん一押しであることについては、豚骨ラーメンと違い、やわやわうどんがほかの土地にまで受け入れられなかったことがあるように思います。よその土地へ自身の食文化が広がっていかないもどかしさが過剰な愛着を生んでいるのは確かでしょう。讃岐うどんのようなコシのある硬いうどんが全国的に美味いうどんの基準値になっていること自体すでにおもしろくないというか。
 あとは、福岡の人は日本一郷土愛が強い故に福岡縁の有名人が大好きで、彼らが美味いと言う料理(店)を手放しに絶賛する傾向があるというのも福岡うどん押しの大きな要因です。特にタモリさんの言うことは絶対で、タモリさんがよく「福岡はラーメンじゃなくてうどんだよ!」と言っていたので、うどんよりもラーメンを愛するのが正統派福岡県民みたいな感じになっているところはあります。福岡の人たち、みんなタモリさん好きすぎだと思います! あと、元ソフトバンクホークス監督ということで王貞治さんの言うことも絶対! 王さんの行く店手放しに褒めすぎ!

 えー、結局今回も長々と福岡の食文化を長文ディスしてしまいました。もう毎回毎回福岡のメシをボロクソ言いすぎてそろそろ明太子の形の覆面を被った福岡ハードコア郷土愛団体FYK(ふくおか・よかとこばかりに・きまっとうやろ?)から家を焼き討ちされてしまいそう! いや! 違うんです! 福岡の食べ物、美味しいものいっぱいあるんですって! というわけで、次回こそはちゃんと福岡市内の美味しい豚骨ラーメン屋さんをご紹介したいと思います! 福岡、とんこつラーメンだけは本当に美味しいの(完全に余計なひと言)!

福岡で一番美味しいうどんといえばマルちゃんの『バリうま ごぼ天うどん』! これはさすがに共感得られるはず! バリうまやんね(雑な福岡弁)!
福岡のじいちゃんとばあちゃんでやってる某食堂のうどん。麺は茹で置きでこれはこれで素朴な味わいとして美味しかったりもするが、これで麺が硬かったら美味しいのになぁと思いながら食べている。400円

ロマンポルシェ。東名阪ツアー! 『男の22周年ハンパしちゃってごめんツアーTOU・MEI・HAN』

11月16日(土)東京都 下北沢SHELTER
https://eplus.jp/sf/detail/3070980001-P0030001P021001

11月29日(金)愛知県 HUCK FINN
https://eplus.jp/sf/detail/3071000001-P0030001P021001

11月30日(土)大阪府 Socore Factory
https://eplus.jp/sf/detail/3071010001-P0030001P021001

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。