【日雇いの1日交通量調査バイト】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第35回

連載・コラム

[2017/4/14 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第35回】日雇いの1日交通量調査バイト


 俺はダメだ。もうどんな会社にも受け入れられない。大学新卒で入った就職採用PRパンフ制作会社を4ヶ月で辞め、英知出版『すっぴん』編集部から3日で脱走、そして軽く不退転なフィーリングで臨んだ熟女もの専門エロ本編集プロダクションを3週間でクビになってしまった。俺のことを知らない誰かが、この書き出し数行の酷い経歴を見たならば、「うわ~なにこのクズ死んだほうがイイネ!」と100パー思うはずだ。俺もそう思う。オラ死なねばダメだ。

 いや待て、死んでる場合ではない。俺は女子プロレスを見なければいかんのだ。1993年は女子プロレス団体対抗戦の年であり、それまで男子のプロレスしか観ていなかったプロレスファンが大量に流入&こぞって女子の推し選手を決め出した頃だ。人が集まる現場は終わったあとの感想戦が花開く故、ブームはさらなる集客につながっていた。まさに、「いま(1993年)女子プロレス観ないでどうすんの!?」なのである(寄り目で涎を垂らし小さな声でウーウー唸りながら)!

 ブル中野が4メートル金網の上からダイビング・ギロチンドロップを敢行したのをテレビで観て衝撃を受け、1990年末から急速に女子プロレスにのめり込んだ。火がつくと一気に燃え盛る性分である。全日本女子プロレスのすべての試合が観たい! と思うあまり、チケット代は消費者金融でガンガンキャッシング。マルイとアコムにくわえ、まったくほのぼのしていないことでおなじみのほのぼのレイク(←New!)からもつまみ、その他かなり優良な類の信販会社1社を含めた合計4社から、平たく言えば数10万円の借金を女子プロレス対抗戦時代に築き上げた。聖地後楽園ホールには消防法をサラッと無視してすし詰めにされた客の山・山・山。いい試合を観た直後は血が滾って止められず、後楽園ホールの事務所に次の試合のチケットを買いに詰めかける。もちろん会社をすぐクビになったりケツまくったりで財布に金などない&銀行残高もない。そんなときは1度落ち着いて深呼吸。冷静に踵を返し、後楽園ホール1階ゲーセン前のキャッシュディスペンサーに赴き「行ったれー!」と歯を食いしばりキャッシング。マルイの真っ赤なカードが血の色に見えた。事務所に戻り「ハァッハァッ、すいません特別リングサイド1枚」と前のほうの高い席を無事購入。日曜の昼下がり、後楽園ホール付近のキャッシュディスペンサーといえば競馬の負けを取り返すべく熱くなった男たちでごった返していたものだが、その敗残者の行列でひとり、馬と馬の競走ではなく女と女の殴り合いにぶっこんでいたのが若き日の俺である。馬と違ってこちらはいくらぶっこんでも返りはない。電気が止まるのが怖くて女子プロレス通いができるか!

 働いてない&カードキャッシングで女子プロ観戦というおもしろすぎて鼻血が出そうな地獄ループに自ら飛び込み身を焦がしていた矢先、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で全日本女子プロレスとLLPWの全面対抗戦が行われることに。メインは北斗晶と風間ルミの敗者髪切りデスマッチ。できるだけ前のほうの高いチケットを手に入れなければ気が済まない。だが、もう各社利用限度額いっぱいで今度ばかりはキャッシングできない。「いよいよ俺も本気になるときが来たようだな……」と肚を決め、試合が行われる当日、日払い可能だという交通量調査のバイトに出かけることにした。

 仕事はクッソ簡単。目の前を通り過ぎていく人間をざっくりと見た目でジャンル/年齢分けしてカウントするだけ。使えない雑工風60代ジジイ×1、カラオケスナック経営してそうな安化粧品臭70代ババア×1、センズリばっかりしてる偏差値20ぐらいの男子高校生×1、イソジンとローション入りのデカイデリヘルバック持った20代前半日焼けギャル(メイクを取ると多分渥美清みたいな顔)×1、といった具合に見た目で人をおもいきり判断して計測していくという、ちょっと頭のいいチンパンジーならできる系の業務である。これを指定されたポイントで3人1組で行う。2時間やって1時間休むという形式だったように思う。

 その日俺が担当したのは地下鉄某駅の乗降量調査であった。年齢層と性別に分けるだけで、見た目の印象などを書く欄はない(7行前ぐらいの記述はサービス精神が行き過ぎて話ちょっと盛りましたすみません)。一緒に組まされたのはメガネをかけた真面目で気弱そうな大学生男、そしてヒヨコのような小さく尖った口元が特徴的な小柄な専門学校生女。一応25歳になる俺が1番年上である。
 この日、問題がひとつあった。駒沢公園駅から歩いて15分とかの辺鄙(へんぴ)な場所でやるため、定時の17時まで働いていたら18時からの試合開始時間に間に合わないのだ。俺は女子プロレスのために当時生きていたので、第1試合から全部観られないなら死んだほうがマシだと思った。そこで一計を案じた。年上であるのをいいことに勝手にリーダーになり、休み時間を俺のが最後に来るようにローテーション組んで、俺だけ1時間早上がりしようと画策したのである。提案してみたところ大学生男は気弱なだけにハァとかしか言わず、専門学生女はなんとなく不服そうな顔をしていたように見えた。
 あの計測するカチカチ言うやつがいっぱい並んだ板を膝の上に載せ、地下鉄から降りてくる彼奴等を何も考えず振り分けカウントしていく。超楽勝だ。多少間違えてようがそれを確かめ検証する術がないのだから、適当にカチカチ押したってなん~にも問題はない。実際かなり適当にやった。考えごとをしていて押し忘れても、えーっと、じゃあいまのは30代男×20人! とかフィーリングで連打して適当に帳尻を合わせた。日給もらったら2度と会うこともない会社のバイトである。真面目にやるだけ損だ。できるだけ屁をこきながらやった。

 そして、16時。俺だけひとり上がりの時間。じゃあみなさん、俺女子プロレス観に行くんでバイなら! と計測器と乗降量記入シートを小柄な専門学校生女にポンと手渡して去ろうとしたその瞬間、「……ここのところ(50代女性)のところ、空欄になってますけど、これは?」と不手際を指摘された。カウントした数字はすべて記入したつもりだったが、ひとつの欄だけ書き忘れていた。でも、「これは?」と聞かれたって、土台真面目にやっていないのだから答えようがない。いや、あの、おかしいな、あれ? 50代女性は朝から1日誰もこの駅降りなかったのかな? とブツブツ言うしかなかったが、咄嗟のことに自分でもわけがわからなくなり、これは? という問いかけに対し、つい素直に「わかりません」と答えてしまった。すると、専門学校生女は呆れたような顔になり、諭すようにこう言った。
 「あなた、20歳過ぎてるんでしょう? 大人なんでしょう? 大人だったら、あまり不確かなこと言わないでもらえますか?」
 ぐうの音も出なかった。仕事ができないことでまた俺は怒られている。しかも自分より何個も年下の女の子に、正論で。3行前の台詞を言われている間、説教を受けているときお決まりの視野狭窄が起きて彼女の口元だけがクローズアップされて見えた。(ヒヨコのような小さくて尖った口の女の子は言うことがキツイんだな……覚えておこう)、と、自分が適当に業務をこなしていた故の人災であったことを完全に棚に上げて相手が繰り出す真っ当な指摘を脳内でシャットアウトしていた。そうだ、何よりもう16時だ。早くこの都内某駅を出て隣駅で待つこの交通量調査会社の人間からバイト代もらわないと。そればかりが気になり、説教を続ける専門学校生女に「もう帰っていいですか」と言うと、1段下がったキツイトーンで「ダメに決まってるでしょ」と返事が。どうやら自分の欲望に素直すぎたらしい。このままでは帰らせてもらえないと判断し、「あ、そうだ」と言いながら思いついた風を装い、3桁の数字を適当に空欄に殴り書きして、軽蔑の眼差しを続ける専門学校生女をぶっちぎって早上がりした。隣駅へ行く地下鉄の車内で、年下の女の子にさえ叱られるような不甲斐ない自分に自己嫌悪した。隣駅で待っていた社員にこれこれこうでローテンション組んだらたまたま自分が早く上がれたので早いですがバイト代取りに来ました、と告げると、高橋源一郎似の社員男は「そうなんだ。ラッキしたね!」と死語っぽく返すのだった。なにがラッキだ馬鹿野郎と大いに苛立った。

画:掟ポルシェ

 その日の駒沢オリンピック公園総合運動場体育館での試合は、かなりどうしようもない格下扱いをされたLLPWの選手が何人も秒殺フォールされていて、観ていて無性に腹が立った。晴れの舞台で屈辱を受けるLLPWの中堅選手に自分がオーバーラップして見えたためであろうか、この日を境にLLPWをメイン現場として試合観戦していくこととなったのだった。

花見シーズン、桜の木を見るとモーマス『テンダー・パーヴァート』のジャケを再現したくなる者は多分世界中に20人ぐらいいる。でもモーマスのTシャツはないのでブルータル・トゥルースのを着用(Tシャツの下に着てるのはブル中野トレーナー)

<次回、【ビルの窓拭き その1】へ続く>

【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[掟ポルシェ]