【エロ本の編プロ正社員見習いその1】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第33回
本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!
【第33回】エロ本の編プロ正社員見習いその1
英知出版『すっぴん』のバイトを3日でケツまくり、アコムからキャッシングした金でアツく女子プロレス観戦。「自滅」という言葉が脳裏をかすめそうになると、そんな月並みなことを考えているようではまだ甘いと更にマルイへ走り、赤いカードをディスペンサーにブチ込み利用限度額全額キャッシング&ちょっといいワインを購入。貴族の没落を追体験するが如く、アパートの自室でガッツリ酔い潰れる。深夜、ムクッと起きて窓を開け身を乗り出し、家の裏にあるゴミ捨て場に垂直落下式にゲロを吐く。無頼としか言えない。
こんなことをし続けていては本当に死ぬので、またしてもあの凶悪なペンキ屋に何食わぬ顔でシレッと出戻り、週3程度バイトしてなんとか生存していた。客観的には人とゴミの中間ぐらいの生活態度だったが、大丈夫俺若いし! まだ人生の帳尻合わせ間に合うし! ぐらいの感じで存分にチンタラし放題であった。
モラトリアムは常に若さから生まれ、竜宮城の会計を延ばし延ばしにさせ、タイやヒラメの舞い踊りショーの多額のツケを支払う恐怖を殺すために追加で度数の強い酒を飲む。気付いたときには白髪鬼。気付かないように白髪染めする白髪鬼。そして、死。どこかで冷静になって死んだように生きることを選ぶか、一気にオーバードーズしてあの世でパーティーを続けるかのチキンレース。平日昼間カタギの仕事をしている彼女にだけは愛想を尽かされないように、ここらでドーン!とどげんか社会復帰せんといかん。
そんな折、エロ漫画家になった友人から、執筆しているエロ漫画誌を作ってる編集プロダクション(出版社の下請けで雑誌制作を代行する会社)が編集者を募集していると聞いた。しかも募集しているのは正社員で、月給25万円もらえるという好待遇。大好きな女性のヘソ下3寸パックリまんじゅうの生写真をルーペで見倒して月々にじゅうごまんえん! 普通そういうのは金払って見るもんなところ、毎日オメ見放題で逆に25万円もらえるという夢のようなシステム! 本当に夢でも見てるんではないだろうかと、陰嚢を万力に挟んでくるくる回して見たところ、ズーンという鈍痛が次第に迫りきたのでこれは現実確定だ。英知出版のリベンジマッチのつもりで編集者人生を再々スタートさせてみたのである(何遍再々スタートさせれば気が済むのか、というご指摘&お怒り、ごもっともです)。
その編プロは東京の真ん中辺り、極度に小汚い雑居ビルの一室にあった。編集者は全部で8名おり、経理の人なども入れれば12名ほどが在籍。このメンバーで一ヶ月に月刊誌を25タイトル作っているという。それでも英知出版と違って死んだように椅子の上で寝ている者などひとりもいない。なんと、定時に帰っても雑誌はできてしまうというのだ。
それもそのはず、ここではエロ本の写真の下にあるニセ性体験レポートなんかは外部のライターが書いている。まぁこっちの方が一般的で、『すっぴん』編集部のように3人しかいない編集者が編集やって写真撮って文章までほぼ全部書くなんて編集スタイルの方がむしろ異常だといえる。早々にケツまくって逃げて正解(無反省)!
こんな優秀な会社、一体どんな切れ者の社長が切り盛りしてらっしゃるのだろうと思ったら、奥の方におぼん・こぼんを足して2で割ったような見た目のガタイのいい男が座っていた。年の頃もおぼん・こぼんと大体同じくらい、その歳で茶髪に染め上げているのもおぼん・こぼんのおぼん師匠っぽく、ジャケットを羽織って仕事しているのにボードビリアンまたはなんかの手配師にしか見えないその男こそ、この編プロの編集長兼社長であった。韓国の社会人野球の選手だと言われたら信じてしまうほどスラリとした体躯の持ち主で、主食はニンニクとすっぽんです、みたいな精力だけはやたらある顔立ち。1ヶ月に25誌のエロ本を量産するエロ本製造マシーンの素顔は、下品という概念を擬人化したらこうなるというものであった。おぼん・こぼんに似ているのにタップダンスは不得意そうに見えた。
簡単な面接を受けて即正式採用ということに。当面は試用期間として10時~18時半の勤務になるが、バイトの日給月給ではなく定額の月給での雇用となる。女性器の写真見放題で固定月給が支給される……これがアメリカンドリームというやつか……!
俺の入社を祝って、すぐさま近所のステーキハウスで歓迎会が開かれた。脂身が苦手なのでヒレステーキを頼もうとして、「おい、なんでお前いきなり俺より良いもの食おうとしてんだよ」と社長に割りと本気のトーンで怒られた。結局1番安いサービスステーキみたいなのになって、牛肉独特の旨味がまったく感じられず、(このステーキ屋、牛肉だって嘘ついて豚肉焼いて出してんじゃねえか?)と、歓迎ムードそっちのけで店のレベルに腹を立てていた。自分のことながらいろいろナメすぎていて恐ろしい。
社長はおびただしい量の唾液を分泌して肉をクチャクチャと音を立てて咀嚼し、せわしない早口で話した。会話にはなんの接点も見いだせず、ただただ社長の前歯が2本突き出た口元が気になった。社長には文化の香りがまったくしなかった。ペンキ屋バイト時代に飯場で見た野球とタバコと車の話しかしないむくつけき男たちと同様の匂いがして、初日にして既に居心地の悪いものを感じていた。
とはいえ、女性器である。若い女性のフレッシュな股間に修正をかける等の贅の極みを仕事としてやらせていただけるのだから、ある程度の無茶や理不尽は飲み込める。耐える心、忍耐といったものが、これまでの俺には欠けていた。でも、いまは違う。女性器と面と向かって向き合えるのなら、どんな仕打ちにも耐えてみせる!
翌朝、定時に出社。まずは俺の呼び方を決めることになった。同じ苗字の男性編集者が既に在籍していて紛らわしいということらしい。というわけで俺は「(先輩編集者と同じ苗字の)2号くん」と呼ばれることに。……俺は愛人か? でなけりゃベイシング・エイプの創業者か? そのうち2号転じて「一文字くん」(仮面ライダー2号が一文字隼人という名前であるところから)と呼ばれることに。なんと呼ばれようがまぁいい。今日からはピチピチギャルのオマンマンを凝視する仕事に従事できるのだ、なんとでも呼んでくれ! ていうか早く仕事をさせてくれいいぃ!
……で、実際の業務を命じられてわかったのだが、この編プロは熟女系エロ雑誌の制作が専門だということ。つまり、若い女の裸を見ることは皆無に等しく、ばってん荒川が性転換したようなリアルババアのただれたグロマンに仏頂面で墨ベタを塗ることに。「騙された」と思った。
【著者紹介】
掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。