【失業保険をもらってダラダラする】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第28回

連載・コラム

[2016/12/26 17:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第28回】失業保険をもらってダラダラする


 俺はダメだ。

 学生の頃に買った2台のビデオデッキを用い、家でテレビのどうでもいいバラエティ番組を片っ端から録画・くだらないシーンを抜粋・カットアップして一本に編集する日々が始まった。この行為はとても忙しく、時間を消費するというただ一点のみにおいてとてつもなく有意義に感じられた。そして、やり甲斐を感じれば感じるほど、俺はダメだということをふんわりと証明してしまっていた。ああ楽しい。なんて楽しいんだ。会社に行かず、昼から深夜、翌朝まで家でだらんと寝そべってどうでもいいテレビを観ているだけの暮らしって、楽しいにもほどがありすぎて……そのうち死ぬなこれは。

 人生初の正社員は、たった4ヶ月でサクッとケツをまくった。俺は就職採用パンフレットの制作とか、意味ありげな実務をするために生まれてきたのではない。人間生活にとって有益なものなどどうでもいい。ていうか俺には無理。無理だった。まっとうなことが何ひとつできなかった。真面目なことを考えたら強制シャットダウンし熟睡してしまう仕組みになっていたのだ俺の脳は。

 俺はダメだ。いままで気づかないようにしていたものの、これでハッキリとしてしまった。使えない奴の烙印を自らヨッコラショと押し当てるために会社に入って、皮膚焼け焦げたんであのー、これ一回休みでいいスか? と、社会性ゼロ確認しただけだった。自分で自分に落胆した。

 起死回生の手立てはあった。それは、エロ本の編集者になることだ。エロ本の編集者なら社会性などなくても出来るだろう。どうせあいつら通勤時チンポ出しっぱなしで電車とか乗ってる者の集まりだ。で、俺はそっち派だ。

 というわけで、コンビニでエロ本を立ち読みする。編集者募集広告が出ていないか確認するためである。目から出た熱光線で穴が開く勢いで紙に印刷された男女のまぐわいを次々凝視。募集広告は出ていなかったが、カウパー腺液は俺のマイ鈴口から大量に出ていた。家に帰ってセンズリしないともうイヤラシイことが頭に渦巻いて泡をふいて倒れそうだ。一時退却。ゆるさんまたくる。

 晴れて無職になったのである。無職とは妖精に毛が生えたようなものだ。ふわふわしていて圧倒的に地に足がついていない状態を指し、傍から見たら何をして生きているかわからない。

 妖精なので、とりま、失業保険をもらってしばらくダラダラすることに。よくわからんが試用期間と有給まで就労期間にカウントしてもらって無理矢理受給対象にしてくれたようだった。妖精だからこそなし得た業だ。とはいえいくら妖精でも申請を出してから3ヶ月経たないと保険金が出ないということで、その間は心置きなく家にあるKRAMERのギターでCARCASSのギターコピーなどをして楽しく暮らした。妖精だからギターソロの部分適当にゴニョゴニョ弾いてごまかした。妖精なのであまり上達しなかった。

 存在としては妖精と一緒なのだが、「毛が生えたようなもの」の部分が多大にあり、腹が減ったり味の濃い炭水化物を大量摂取したり旺盛な性欲があったりレンタルビデオでいやらしいAVを血眼になってサーチして大量に借りたりと生々しい部分は人間そのままなので、お金がないと死んでしまう。女子プロレスも後楽園ホールの東か西側に座って観たいしギャーとかいう断末魔が豊富に収録された気の狂ったレコードなんかも欲しいしもっと言えば家賃の支払いも危うくなってきた。これは非常にマズい。どうしたらいいかしばし熟考し、答えが出た。

 ということで、すんなり人生初アコム。無人貸付機「むじんくん」を使えば、サラ金の社員の営業用の張り付いた微笑を見ないでもお金が借りられるのだ。「むじんくん」は最高だ。お金がなくなったからと言って次の働き口を早急に見つけて働くとか、そんなちゃんとした芸当ができるほど俺は人間ができていない。それになんといっても、失業保険をもらうにはちゃんと働いてちゃダメなのだ。ここはひとつ、心置きなくしばらくの間ダラダラさせてもらう(アコムの査定がどうやって通ったかは覚えていない。恐らく無職になる直前の正社員時代に、今後金が入用になることを見越してカードを作ってあったように思う)。

 一応職探しもちゃんとやっていた。中野サンプラザの9Fとかに当時あった職安のようで職安ではない無職専用サロンで、『フロムA』や『デイリーan』を手にとってマスコミ採用のページを日参して食い入るように見ていた。だが、いつ見てもエロ本出版社の募集は出ておらず、代わりに『男!日本海』でおなじみの玄太郎先生のアシスタントが「急募!」という形で毎週のように出ていた印象しかない。どんな漫画なんだろうと『漫画ゴラク』を確認したところ、素晴らしすぎて一瞬で納得した。やってみようかと思ったが、人使いが荒そうな感じが求人誌の誌面からビンビンに放射されていたので堪えた。

 あまりアコムに甘えてばかりでもすぐに利用限度額が来てしまうということで、多少は経済活動もした。まず、新宿のディスクユニオンに行き、100円レコードコーナー(通称・エサ箱)でニューウェイブ系のどちらかといえば無名なアーティストのLP(12インチEPは不可)を10枚セレクト&千円で購入。そしてその足でまんまその10枚を中野RAREに買い取りに持っていく。ここは当時、よくわかんないLPならなんでも300円で買ってくれたので、自動的に3千円で買い取ってもらえて2千円の利ざやが生まれるという寸法だ。食うのに困るとこれを週2ぐらいでやっていた(ディスクユニオン新宿店様、中野RARE様、その節はお世話になりました! おかげでいまこうして生きています! ディスクユニオンと中野RAREは素晴らしい中古盤店! みんなも行こう!)。

 失業保険をもらいながらしばらくダラダラした後も、なかなか求人誌にエロ本編集の募集はなく、金銭的にも限界だということで、また臨床実験に行ってわけのわからない薬を飲んだり、またあの底辺オヤジだらけのペンキ屋に腰掛け的に戻ることにした。自分自身、何年に何があったか等、年号の記憶には意外と自信がある。しかしながら、この時期に自分が何をしていたか、ぼんやりとしていてあまり思い出すことができない。まだ何者でもなく、現場の底を這い、シンナーの嫌な臭気が充満した暗澹たる記憶の壺に蓋をしているのだろう。あの頃があったからいまがあるのかはよくわからない。経験しなくてもいいことというのはこの世にごまんとあり、俺はダメだと確認させられる社会の厳しい部分ばかりが打ち寄せ、この後しばらく俺を打ちのめす。

無職直前か直後辺りのダメショット。ちょっとアレな子風に首を傾げて写っているが、うっかり本物感を醸してしまう
本棚には三条友美全集と自分で編集したくだらないVHSビデオの数々、壁には宇宙人にしか見えないヤバいコスチュームの『郷ひろみ IN U.S.A』の裏ジャケが確認できる。カーテンの向こう側はゴミ捨て場で夏は猛烈に臭かった中野6丁目のアパートもいまはない

<次回、【ペンキ屋に逆戻り】へ続く>

【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[耳マン編集部]