【最終回・今後一生バイトしないでなんとかしたい】掟ポルシェ『男の!ヤバすぎバイト列伝』第45回

連載・コラム

[2017/9/1 12:00]

本連載はニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当、DJ、ライター、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」など多岐な活躍をみせる掟ポルシェが、男気あふれるバイト遍歴を語る連載である。すべての社会人、学生、無職よ、心して読め!!


【第45回】最終回・今後一生バイトしないでなんとかしたい


 バイトを辞めても生活できるようになり、もう16年とか結構な歳月が経過。いまでも何の仕事でメシを食っているのか説明に困るほど多岐に渡りすぎる活動を複数やってなんとか糊口をしのいでいる。一応バンドをやることで世に出たので、肩書きを求められれば仕方なく「ミュージシャン」と名乗っているが、それで得られる収入は聞いたらションベンちびるほど少額である。俺に肩書きを聞いてくる奴はデリカシーというものが感じられないのでもれなく呪うことにしている。気をつけてほしい。

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 本業が定かでないのが所謂「サブカル」というやつなのだろう。あまりメジャーではないサブなカルチャー(ポール牧言うところの「アブなノーマル」みたいなこと)への趣味嗜好と多少の見識が細々と各方面にあって、そのおかげでなんとか生き長らえていられるわけだ。要するに局地的なんでも屋である。

 90年代にサラ金でハードコアキャッシングして女子プロレスを観まくっていたことが『紙のプロレス』でのプロレスコラムや女子プロレスラーインタビュー連載に繋がったり、男の120回ローンを組んで死ぬ思いでアナログシンセや録音機材を買っていたことが後にロマンポルシェ。での活動に役立ったりした。いま現在ブラブラしている若い人へ言ってあげたいのは、無駄だと思える偏狭な趣味ほどあとで生きてくるということ。湧き上がる熱狂には後先考えず飛び込んでしまえばいい。人生に回り道はあるが無駄なことは実はそれほどないもんである。あとは帳尻合わせの能力と「なんとかなる」と死に物狂いで念じる心が重要。アリとキリギリスで言えばキリギリス街道を爆走してきたわけだから、俺も老後のことが頭をよぎったときには迷わず強い度数の酒を飲むことにしている。わけわかんなくなっちゃえばこっちのもんである。参考まで。

 バイトを辞めてからの16年間、いろんなことをやってきた。10年くらい前、何かの間違いでテレビのバラエティ番組に出ていた時期が少しだけあった。”東海道五十三次を京都から東京までふんどし一丁で逆走&間にある川はすべて泳いで渡る”という、文字面を見ても一体何が面白いのか不明な『男は橋を使わない』という企画をやっていた。そのため、俺のことを芸人だと思ってくれている人がいるようだ。実際、寄席などほぼ出たことがないので誤解なんだが、芸人のカテゴリーに入れてもらえるのはとても光栄なことだと思う。テレビに出て一時的に知名度は上がったものの、何故かバンド活動にフィードバックされることは微塵もなく、バラエティ番組出演真っ最中のころにキャパ200程度の小さなライブハウスに出演が決まったが、おいおい俺テレビ出てんだぜ収容しきれないぐらいお客さん来ちゃったらどうすんのよ~、とか思って当日蓋を開けたら集客実数50人(しかも対バンのお客さん込み)。ステージに出ていった瞬間ショックのあまりその場で2秒ほど死んだ。とても恥ずかしかった。

 本業と呼んでいいかわからないが、それなりに世間に認知されている俺の業務内容にDJがある。90年代から00年代初頭、クラブで日本語の曲をかけることはご法度だった時代に最新のJポップを一晩中かけることで人気を博した痛快&嫌がらせDJイベント『申し訳ないと』や、モーニング娘。やハロー!プロジェクトの曲だけをかけて300人とか普通に集客していたハロヲタによるハロヲタのためのDJイベント『爆音娘。』に参加し、アイドルの曲だけをかけるDJをやったところ、00年代前半でそんなことをやってる輩が意外といなかったためなんとなく需要が発生。“曲のピッチを合わせることが出来ないので踊ったり面白い顔してなんとかごまかす”という卑怯なプレイスタイルから始まって、今日ではさらにズルさに磨きがかかり、“選曲の妙で勝負することを放棄&DJ中ブースから離れて客をガムテープでぐるぐる巻きにしたりちくわポッキーゲームしたりする”という、DJというよりなんか別なジャンルのズル・パフォーマンスに到達。いまではDJ中に口にちくわをくわえ、初対面のおっさん客にちくわの反対側を食べさせると見せかけて熱いキッスをすることで金を稼ぎ、小学3年の息子の給食費を払っている。世の中実に不条理だ。

 本当に才能があると自分で思うのは、コラムでいい加減なウソを書き飛ばすことと、数作しか出演作のない声優業ぐらい。あとは各ジャンルの仕事に面白い顔を追加して乗り切るようにしている。今後もバイトしないで食っていけるように、面白い顔のバリエーションを増やすなどの営業努力をしていきたい(現在3種類)。

 借金は結局弁護士を入れて99年に債務整理し、月々の支払額を無理のない程度にして丸3年ぐらいかけてなんとか終わらせた。おかげでいまでもクレジットカードが作れない等多少の不便はあるが、あのとき整理屋の恩人(当連載42&43回を参照)に出会ったおかげで暗い地下で強制労働&円ではなくペリカで生活したりしなくて済んでいる。『闇金ウシジマくん』は他人事とは思えず、読みかけたものの3巻までで挫折。

 よく「学生の頃のテスト勉強の夢を見てうなされる」といった声を聞く。俺はあまりがんばって勉強してこなかったのでそれはない。その代わり、いまもビルの窓拭きの夢をたまに見る。実務労働で自分に向いていたバイトだったとはいえ、7年もやっていたから脳が忘れられないのだろう。ビルの屋上からブランコでぶら下がって窓を拭いていたあのころは懐かしくもあるが、なんとしてでも戻りたくないというのが正直なところだ。だから夢に出てくる。

 平日朝起きて会社に行き、昼間カタギの仕事をして夜になると帰る、というライフスタイルを送っている人のことを、俺は無条件に尊敬している。精勤はそれだけで尊い。俺みたいな社会貢献に直接寄与しない職業の者は、真面目に会社勤めしている皆さんのおかげで存在することが出来ていると思っている。遊びみたいな仕事をさせてもらっています。ありがとうございます。

 で、この連載がなくなると収入がまた少なくなってきてしまって、バイトコラム連載終了直後、またバイト生活に逆戻りという事態も考えられなくはない。なんとか別テーマで連載を続けてさせてもらえるよう、リットーミュージック社長の草履を俺の下着の中に入れて人肌に温めようと思っている。

 - 完 –

背後には窓を拭いていた某ビルが。地上40メートルの高所からブランコに乗ってガラス清掃。いまやれと言われても多分出来ないと思う。

<『男の!ヤバすぎバイト列伝』 最終回記念 写真マンガ>
尾道の神社の石段の最上段から、ロマン優光と掟ポルシェがひょんなことから抱き合ったままゴロゴロ回転&落下! 気がつけばなんと! 二人の体と心が入れ替わっていた! おれがロマンでロマンがおれで!? (この写真は尾道三部作インスパイア系として2000年頃勝手にリメイクされたものです。ALL RIGHTS NOT RESERVED)


【著者紹介】

掟ポルシェ
(Okite Porsche)
1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど、活動は多岐にわたるが、なかでも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

[掟ポルシェ]