「名古屋の名門・ホテル長楽〜SNAIL RAMPの作り方・22」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2019/6/13 12:00]

すると「……はい」という声とともに60代と思われる小柄の女性がドアを開けてこちらに出てきた。小さな窓口越しにやり取りするものと思ってた俺は多少面食らったが、驚くべきはそこじゃなかった。

下は膝が隠れる程のなんとも微妙な丈のスカート、上は……アレはなんて言うのでしょうか。キャミソール状の、でも完全に「ザ・下着」と声を大にして主張しているようなもの、1枚で俺らの前に出てきた。あまりに堂々と出てきたので一瞬それが下着と気づかなかったが、やはり下着。そんな格好をした60代のおばちゃんと、ローテーブルを挟んで薄汚い小さなソファに向かい合って座り、俺たちはホテル利用の説明を受け始めた。

まずは宿泊料金。泊まるのはメンバー3人とスタッフ代わりの友達2人、計5人だ。

おばちゃん「全部で5人? じゃあ1人3500円……」
俺たち「(3500円か、安い……。つか料金に自信がなさそうな口調だな)」
おばちゃん「えーと、3500円……?」
俺たち「(おいおい、こちらに訊いてきたぞ!)」

やり取りの空気感から感じるに、このホテルに値段の目安はあるもののそれが絶対ではなく、そのときのやり取りで宿泊費が変わる、原始的な宿泊費変動システムがあるようだった。試しに「んー、1人3000円かな」と言ってみたら、渋い顔をしながらもおばちゃんはそれを受け入れてくれた。

これで値段は決まった。5人で1万5千円。安い、安すぎる……。

続いて部屋のロックの仕方。その当時のビジネスホテルでもオートロックのホテルが多かったと思うが、ここは当然に違う。というか、「鍵はこれ」と言いながらローテーブルの上にゴロンと重量感のあるものを置いた。カギが差し込まれている南京錠だった。

「……え? これ?」
「そう、これ」

面食らう俺たちを尻目に、まるで「パリコレ」と言うが如く「そう、これ」とおばちゃんは言った。入室したときには内側から、外出するときには外側にこれでカギをかけていけとのこと。戸惑う俺たちだったが、唯一ドラムの石丸だけは「あー、はいはい」みたいな顔をしていた。訊いてみると「いや、ウチもこれなんで」と平然と答える石丸。

「石丸、お前ハングリーすぎ……」

その逞しさに呆れながらも、この名古屋の名門『ホテル長楽』でのチェックインを終えた。ちなみに、これはあくまでちなみになんだが、この一連の説明を受けている最中、おばちゃんの胸は丸見えだった。その下着がダルダルなこと、おばちゃんがノーブラ派だったこと、このふたつが化学反応を起こし、結果、おばちゃんの胸が丸見えになるという未曾有の災害が起きた事をつけ加えておく。

今回のコラム、まずはここまで。気づいている方もいると思うが、SNAIL RAMPはまだホテル長楽にチェックインしただけだ。部屋にも行ってないし、泊まってもいない。名古屋の名門・ホテル長楽が本気を出すのはこれからだ。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。