「“夏フェスで受けた人種差別”の反応を受けて」タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2019/8/30 18:00]

あの夏フェス黎明期において「手探りだがフェスを成功させよう」と海外ビッグアーティストを招聘し、いい気分でライブをしてもらい、何とかして来年や再来年に繋げたいという主催側の情熱や努力は尋常なものではないはずです。

そんななか、主催側が重要と考える海外アーティストから「日本人とは食事エリアを別にしてくれ」とオーダーがあった場合……。まだ説得しやすいであろう日本人側にそれを強いてしまう心理、「これヤベェな」と思いながらも同胞ならわかってくれるんじゃないかという、甘えに近い願望。

これ、逆に主催の立場になったらあのときの対応が選択肢のひとつとして脳裏に浮かんでしまう人も、当時の社会観を考えると相当数いたんじゃないでしょうか? もしかしたら、俺ですら思ってしまったかもしれないです。

主催側の担当者にしても、人種差別をするような人ではないことは俺もよくわかっていました。そんな人でさえ「業務」による無意識の圧力の前に、本来仲間であるはずの同胞に被人種差別を強いてしまう。倫理とは、いかにはかなく脆いものなのか。強く留め置いておかねばならないと思う出来事でもありました。

あとよく目にした「そんな事を言い出すバンドなんか、日本に来んな。さっさと帰れ!」という意見。

わかります。俺も最初、そう思いました。でもそれは負の連鎖を生み出すことはあっても、いい方向へは行きづらいと思うんです。本来なら「日本人とは食事エリアを別にしてくれ」と言われたときに「それは人種差別にあたるからできない」と、対応に当たった人が毅然と伝えるべきだった、そう思っています。

そして「一体どのバンドがあんな事を言ったのか」問題。

これについては口をつぐみます。なぜって? いや、俺も知らないんだよね。誰が言い出したのかを担当者に訊く気も起きなかったし、よしんば訊いたとしてもそれはさすがに答えなかったでしょう。

そしてそれが誰だったのかを暴き糾弾するよりも、今回このコラムを読んでくれたそれぞれの方が「人種差別をしてはいけない」という認識を再度、強く持ち直すことが、未来に向けたはるかに重要なアクションだと考えています。

ちなみにネット上では「GREEN DAYじゃね?」との噂が出ていますが、まず「GREEN DAYが出演した夏フェスかどうか」、俺は一切明言していません。そのうえで発言しますが、「GREENDAYはそんなことをする人間ではない」と信じています。言っとくけど、ボーカル&ギターのビリー・ジョーはめっちゃいい人だからな(マジで)。

いつだったか、GREEN DAYがメインを務めるイベント(さいたまスーパーアリーナ)にSNAIL RAMPが出たことがあって。うちらは当然のように彼らの音楽が好きだし、当日も意気込んで臨んだわけですよ。ただその日程の前後、SNAIL RAMPは怒涛のスケジュールで全員が疲労困憊。俺に至っては、疲労がたたって喉の調子も激ワル。ライブでもきちんと声が出ていない状態だった。

そんななかで自分たちのライブが終わり、メインのGREEN DAYのライブを見始めるも「少しでも早く帰宅して身体を休めないと、今後のスケジュールに悪影響を及ぼしてしまう」とソワソワしだしちゃって。GREEN DAYとはそれまでにも何回かライブをやったこともあったし、俺、最後まで観ずに帰っちゃったんだよね(本当に失礼。反省してます)。

でもそんなことは知らないビリー・ジョー、GREEN DAYのライブ終了後にわざわざSNAIL RAMPの楽屋まで挨拶に来てくれたんだよ。で、「あれ? 帰っちゃったの?」となったのを、あとでスタッフが教えてくれました。

改めて謝りたいのですが、ビリー先輩あのときはマジすいませんでした!

ビリー先輩、それくらいいい人なんだって! そんな人が日本人を人種差別なんてしないと思うんだよな。

長くなってすみません。最後にこれだけ。

「特定の国の人を快く思わない感情」を内包することとそれを発露すること、そこには決定的な隔たりがある。

前回に重ね、これだけは記しておきたいと思います。

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。