「スネイル、高速上で事故にあう〜SNAIL RAMPの作り方・31」タケムラ アキラ『炎上くらいしてみたい』
若い女性がグッタリしたまま、車内に閉じ込められていた。しかもその手には携帯が握り締められている。運転中に会話をしていたのか、事故後に助けを呼ぼうとして力尽きてしまったのかはわからない。
高速道路上にいる俺たちはいつ後続車に突っ込まれるかわからない状態だったが、今思えばそんな理性は働かなかった。助けなきゃとなったが、エンジンから発火でもされたら怖い。「石丸、エンジン切って」と頼むと「わかりました!」と石丸はすぐに運転席に手を突っ込んで、キーを回した。
その瞬間「キュルルルルルル!」とすごい音が鳴り、俺たちは「ヤバい!」と一斉に車から後ずさりした。車がひっくり返っているからなのか、石丸はキーを反対に回してしまいセルモーターを動かしてしまったようだ。「ウワァァア、すいません!」と恥ずかしそうにする石丸。こういうところが石丸の可愛いところだ。が、まずはこの意識のない運転者を助け出さなくてはいけない。
ひっくり返り潰れかかっている屋根に阻まれて、当然のようにドアは開かない。フロントガラスは運転者が激突したのだろう、蜘蛛の巣状にヒビが入っていた。「こっから出すか」と決め、皆でフロントガラスを壊し始めた。
その頃にはほかに2台ほど停まってくれた車がおり、彼らがさらに発煙筒を焚いたり他車への注意喚起を行ってくれたお陰で救出作業に専念することができた。俺たちはフロントガラス部分から運転者の女性を引っ張り出し、路肩の比較的安全と思われるところに寝かせた。
あれが何分くらいかかったのかはわからないが、そこへちょうど救急車とパトカーが来た。女性が搬送されるのを横目に、俺たちは駆けつけた警察官に状況を説明。ただ、その日もライブがある。リハの時間が迫っていた俺たちは状況説明もそこそこに、機材車に飛び乗りライブハウスに向かった。慌ただしいなかリハまで終えた俺は、ようやくそこで自分の脚などにあの女性の血が飛んでいることに気づいた。
意識が戻ることなく搬送されていったあの女性、なんとか助かってくれてたらいいんだけど。