ヒドすぎるジャケを語る上で欠かせない?/イングヴェイ・マルムスティーン『トリロジー』 平井”ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第14回(番外編):ヒドすぎるジャケを語る上で欠かせない?/イングヴェイ・マルムスティーン『トリロジー』
恒例のたまに出現するヒドすぎるジャケット紹介の回。今回は、ロックを語る上でビートルズを避けては通れないのと同様、ヒドすぎるジャケットを語る上でまず避けては通れないイングヴェイ・マルムスティーンの名盤を。
イングヴェイ・マルムスティーン『トリロジー』(1986年)
イングヴェイといえばその超高速の速弾きとクラシカルなフレージングでロックギター界に大革命を起こした天才ギタリストである。イングヴェイ以降、彼を真似してひたすらに速弾きを追求しまくるギタリストが増殖したが、結局のところこのジャンルにおいて速さではイングヴェイを超えられても総合的な魅力では誰ひとりとして彼の領域におよぶぶ者はいないと言われている。個人的に思うのは根っこの部分にブルースの影響があるかないかが大きいのではないかとか思ってたりするが。
なんにせよ若くして天才天才と世間からおだてられすぎたせいか、彼の性格はグニャグニャにひん曲がり、超絶自己中ナルシスト王子に成り果ててしまったのである。そんな超絶が1986年に発表したアルバム『トリロジー』は、超絶らしさが存分につまった内容で、ボーカリストであるマーク・ボールズの気持ちのいいハイトーンボイスの魅力もあり、超絶のキャリア上屈指の名盤として知られている。と同時に、超絶のキャリア上、いやロック史上屈指のダサジャケとしてもあまりにも有名なのだ。
まあ、ぱっと見ていただければわかると思う。ヒドイでしょう? 三つ首のドラゴンに必殺の武器ストラトキャスターで戦いを挑む超絶というシチュエーション。意味不明である。しかしかといって文学的でも哲学的でもない。そしておそらく負ける。
まあそもそもこういうヘヴィメタル系のバンドのアルバムジャケットは妙にダサいものが多いのだが、例えばジューダス・プリーストやアイアン・メイデンといったバンドのジャケットはダサくはあるがどこか美学を感じる。「ダサいがそれがどうした。俺たちはこのまま突き進むんだ」と言わんばかりのヘヴィメタルバンドとしてのある種の誇りのようなものを感じるのだが、超絶に関しては普通にかっこつけようとして失敗しているように見えるので、余計に滑ってる感があるのだ。何しろ彼は昔自分のやっている音楽のジャンルを自ら「ヘヴィシンフォニックメタルロック」と名づけていたセンスの持ち主である。文章力のない奴が音楽レビューで「スーパーミラクルボンバーファイヤー名曲」とか言ってるのと同じセンスだ。(※第12回参照)
とまあひどくこき下ろしてしまったが、音楽面のみを見れば彼は紛れもなく天才であり、僕も大好きなギタリストのひとりである。ただ今後またヒドすぎるジャケットで彼のアルバムを取り上げる可能性は100パーセントくらいある。