衰え知らずの才能が発揮された傑作/ゴットハード『BANG!』 平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)連載
音楽と絵画を愛するお笑い芸人・平井“ファラオ”光(馬鹿よ貴方は)が美術館の館長となり、自身が所持する数々のCDジャケットのなかから絵画的に見て優れているもの、時に珍しいものをご紹介する連載。
第15回:衰え知らずの才能が発揮された傑作/ゴットハード『BANG!』
今回ご紹介するのはこちら。
ゴットハード『BANG!』(2014年)
正直このバンドについて書かせたら連載1回分では到底足りないのである。音楽を好きになって20年とちょっと。レジェンドと言われるアーティストからかなりマニアックなものまでそれなりにいろいろ聴いてきた。そんななかで僕がもっとも感銘を受け、心の底から一生追い続けようと思ったバンド、それがこの山と時計とハイジとペーターで有名なスイス出身のハードロックバンド、ゴットハードである。
キャリアはそれなりに長いのだがまだまだ日本含め世界的な知名度は低い。しかし初期の頃からキャッチーな楽曲とスケールの大きさを感じさせるライブでマニア層からは高い評価を得てはいた。特にボーカリストのスティーヴ・リーの圧倒的な歌唱力とライブパフォーマンスはロック界広しといえどいまだにこれ以上の存在はいないと僕は思っているほどだ。何よりも本当に楽しそうにロックを歌う人だった。だった、と過去形にしてしまうのは彼が2010年に不幸な交通事故でこの世を去ってしまったから。
アメリカでのこと。彼の長年の夢だった広大な大地のなかでのツーリングを仲間20人ほど連れて楽しんでいたところ、突然の雨に降られたため、仕方なくバイクを路肩に寄せ雨具を装着していたら、道の向こうから大型のトラックが。するとなんとそのトラックが雨のためスリップし、停めていたバイクを弾き飛ばし、その飛ばされたバイクがよりにもよってスティーヴに激突。それで終わりである。ヘラクレスのように頑強な肉体を持つスティーヴがこんなにもあっさりと死んでしまったのである。20人ほどの仲間のうちスティーヴだけが。そしてそのツーリングにはスティーヴの恋人も同行していた。スティーヴはサプライズで彼女へのプレゼントも用意していた。
神はアホである。昔からこれからという才能あるミュージシャンを天国に引きずり込んで自分ばっかり楽しんでいる自己中な奴である。とにかくスティーヴは実力でいえば間違いなくロック史に名を刻めるほどの人で、批判を恐れずに言うならミック・ジャガーよりも、ロバート・プラントよりも、フレディ・マーキュリーよりもすごいボーカリストだったと僕は思っている。しかも享年47歳にしてまだまだ進化し続けており、あと5年か10年後には本当に誰にも手の届かない領域に達していたのではないかとさえ思う。そんな絶大な可能性を秘めていてなぜ世界的にブレイクできなかったのか、その理由に関してもいろいろあるのだがそれを書くとまた長くなるのでここでは割愛。とにかくロック界最強のボーカリストを失ったバンドは意気消沈し一時活動を休止するも、新ボーカリストに無名のシンガー、ニック・メーダーを迎えることで復活、再び歩き出した。
『BANG!』はニックを迎えての新生ゴットハードとしての2作目にあたるアルバム。ニックはどうしてもスティーヴと比較されてしまうかわいそうな立場にありながら、いちボーカリストしては素晴らしい仕事っぷりをみせており、何よりバンドそのものがスティーヴの魂を受け継いでより強い結束力をサウンドに反映させ、それがとてつもなく強力なグルーヴを生み出しており、ゴットハードというバンドの衰え知らずの才能を見事にみせつけてくれている。このでっかい岩はまだまだ転がり続けるのである。
そして同作のジャケットだが、こちらもこれまでのゴットハードにはなかったタイプのデザインである。古いアメコミ風のタッチで描かれたアニメチックなイラスト。今の時代だからこそより洒落て見えるというものだ。描かれている女性はケイティと言って、どうやら酒に弱いというなかなかどうでもいい設定が乗っかっているようである。ノリの良いグルーヴ感たっぷりのロックンロールを期待せずにいられないクールなジャケットだ。そしてその期待を裏切らない最高のロックアルバムである。しかし反面、涙を誘う壮大なバラード曲までも充実している。それがゴットハードというバンドなのである。
本当にゴットハードのことについては語りたい、書きたいことがたくさんありすぎる。もはやあらぽんの連載を潰してでもゴットハードのことを書きたい。
需要なんか気にしないもん。