竹下幸之介(DDTプロレスリング)の『ニシナリライオット』第29回:「今でも忘れられない人生で初のナンパ」
岩崎は硬派一筋で、ナンパはおろか女性と目を見て話したことがあるのは母と祖母と叔母だけというエリートだった。そんな岩崎が炎天下のピチピチギャルに声をかけにいくなんてできるわけがなく、残酷にも時間だけが過ぎていった。
それから数時間が経って、言い出しっぺの江崎がまず行ってお手本を見せてくれよということになったのだが、唯一メンバーのなかで江崎だけが彼女がいて、
「おれ、ほら、彼女に悪いやん?」
と、自分の手は絶対に汚さない。話し合いは平行線。このままでは埒(らち)が明かない。ここは漢気を発動した岩崎がまず行くことになった。行くと決めたのはいいものの、バンジージャンプをなかなか跳べない人と同じように、あと一歩が踏み出せない。全員で岩崎を鼓舞すると、頭がパンクしてしまったのか
「キエエっっー!」
と謎の奇声ををあげながらギャル軍団に近づいていく。そして10メートルくらい離れた女の子に
「こんにちは」
と声をかけるも、遠すぎる。届くはずもなく撃沈。本当に自分のキャパを超えた人間はこんな風に涙が出るんだ。と知った。そんな岩崎を誰も責めることなどできない。いよいよ戦犯として浮き出てきたのが江崎だった。それでも抵抗し、
「おれはナンパしたこともあるから、やってもおもんないから」
嘘までつき始めた。全員で江崎がいかなきゃこのままでは死んでも死にきれないという空気感を作る。
「わかった!もう行くわ!」
キレながらも女の子が集まるエリアにに足を運び、ちょうどタイミングよくビーチボールが飛んできたので、江崎が一気に勝負を仕掛ける。
「君たちいくつや?」
江崎、それやと補導にきた警察やから。
結局、その夏も、またその次の夏も。おれたちがいい思いをしたことがなかった。
でもあの日の一致団結感、ONE FOR ALL,ALL FOR ONEの精神はすごくいい思い出になっている。
夏が来れば思い出す、はるかな尾瀬。とおい空。