【掟ポルシェの食尽族】第21回:舌の記憶に残る至高の逸品! 中野『LABO麺』の『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』

連載・コラム

[2021/4/9 12:00]

自称「食べもののことになると人格が変わる」ほど食に執心する“食尽族”でミュージシャンの掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)が、実際に食べてみて感動するほど美味しかったものや、はたまた頭にくるほどマズかったもの、食にまつわるエピソードについて綴る連載。読んで味わうグルメコラムがここに!


第21回:舌の記憶に残る至高の逸品! 中野『LABO麺』の『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』


人間は下品ですがメシだけは上品な味のものが好き!

 突然ですが、人間、所詮パッと見の印象とファーストコンタクトのイメージでいろいろと決めつけられるものだというお話です。自分は見た目おもしろおじさんですので、マジな話人前に出る・出ないにかかわらず外出時はプラスチック製のサンバイザーを装着。衣服は常時パステルカラーでまとめがちで、これが子ども番組のうたのお兄さんのファッションならば100点なのですが、当方生憎お兄さんには程遠い厄年プラス11=52歳&子ども番組に出演する側ではなくガッツリ観る側おじさん。小学校のまわりを意味なく2周以上したら警備員に刺股で引っ捕らえられること確実。見た目のポップさは時と場合により要注意人物として地元教育委員会にマークされる要因になってしまいます。単に着たいものを着ただけで巨大な何かと戦わなくてはならなかったりして、まだまだ現代社会は多様性を重んじていないことを痛感中。職質上等!
 見た目こんな&やってることこんな(顔面に銀色のなにかを塗りたくって大空の下奇声を発しながら駆け巡る等)なんで、昔から生活のあらゆる面において“突飛”を望まれます。普通の服が買えることでおなじみのジーンズメイトに入店するところを見られたときに、「そんな普通の店に入るような人だと思いませんでした。ガッカリしましたファンやめます」とホームページのBBSに書き込まれたり、普通のファッションセンスの嫁と結婚しただけで、「あれ? 掟ポルシェの嫁なのに不思議ちゃんじゃないんだ? せめて頭の上に旗かアンテナ立ってないとダメでしょ」と文句を言われる始末。あの、俺をなんだと思ってるんでしょうか。
 ある程度無茶苦茶な人間と見られることは全然良しとしておりますが、俺最大のこだわりが強すぎるポイントである飯の話だけは、見た目の印象で決めつけられると割とキレます。「デカ盛り料理が好きそう!」、「ラーメン二郎アブラマシマシって感じ!」、「主食は豚の睾丸って顔だよね!」とか面と向かって言われたら確実に目ン玉えぐりますね、そいつの。人間は下品ですがメシだけは上品な味のものが好き! ホルモン焼きより仔羊のコンフィ、うなぎは甘辛いタレがベッタリ付いた蒲焼きではなく白焼きをすり下ろした山葵と数滴の生醤油で、薄汚いけどでもなんだか気が置けない下町の食堂でお母さんが作る心のこもった真っ黄色のカレーよりも地価が高そうな都会の清潔感のあるおしゃれなカフェで長年修行を積んだシェフが厳選された素材で作った食べたことのないような絶妙な旨味のスープカレー(食べログ3.5以上)が食べたいの! F*CKぼんやりした味の田舎料理!! あの柄杓みてえなでっけえ木でできたレンゲを入れた料理を俺に食わすな!!!! ……ハァッ、ハァッ、すいません取り乱してしまいました、メシのことになると人が変わってすぐ激昂しちゃうんでどうもいかんですね。えー、いい加減枕長すぎなんでそろそろ本題に入ります。

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上品でやさしい味わい、見た目もスタイリッシュな“推しラーメン”をご紹介!

 そんな見た目の印象と逆の舌を持つ俺がここ数年よく食べるようになった料理があります。それは、“ラーメン”。え? ラーメンこそ気取りのない料理だろ!って? それがですね、近年東京を中心に流行っている透き通った清湯(ちんたん)スープに中細麺を合わせたラーメンは、スッキリとしてとても上品なやさしい味わいでスタイリッシュで見た目も麗しく、店頭やダクトから著しい動物臭のする下品一歩手前の無骨なラーメンとはまったく違った料理になっていて、カルチャーショックを受けるほどの優雅な味覚は確実に舌に与える情報を刷新します。
 清湯スープのラーメン屋に「らぁ麺」表記の店が多いのは、踏襲している基本形を作ったのが西早稲田の『らぁ麺やまぐち』であるからとの説があります。鶏醤油清湯スープにのどごしの良い中細麺、具材に低温加熱調理が施されて極限まで柔らかくなった鶏むね肉と豚肉のチャーシューが各1枚、これまた柔らかい拍子木切りメンマといったシンプルなラインナップ。店によって鶏ではなく豚のスープだったり魚介系との複合だったり、メンマが長い若竹だったり青ネギや白ネギがのったり等多少のアレンジが加わりますが、この感じのシンプルな見た目の醤油清湯ラーメンが好みであると気づいてからというもの、食べログランキングの画像一覧を見て店を選ぶと大体当たるようになりました。新宿三丁目『らぁ麺 はやし田』、鷺ノ宮(現在は横浜青葉台に移転)『らぁ麺 すぎ本』等、食べた瞬間「求めていたのはこれだ!」の連続。特に『らぁ麺 はやし田』の味玉のどぐろそばは、鴨と大山鶏の丸鶏を大量に炊き上げた基本のスープにのどぐろの魚介出汁が合体した動物系と魚介系のダブルスープで、まぁなんていうんでしょう、平たく言えば最高で。開店当初の2018年に初めて食べたときには「長生きしてるとこんな美味いものが食えるようになるんだ」と、現代のラーメンの味の洗練具合に涙が出ました。飯を食ってその美味しさに涙を流せれば食のマッドメンとして一人前です。

『らぁ麺 はやし田』の『味玉のどぐろそば』

 繊細な風味の清湯スープのラーメンの魅力に取り憑かれ、仕事もせずに「東京 清湯 ラーメン ランキング」等のキーワードで検索をかけ、映画『仁義なき戦い 完結篇』で松方弘樹が演じた市岡輝吉風の狂犬的表情で食べログを殺す勢いで凝視。目から光線を放ちフラフラになりながらクレイジーサーチすると、ある日「こんな見た目のラーメン、俺絶対好きに決まってる」という1杯の画像を発見。場所を見ると、ゲッ、中野!? 東京の仕事場マンション借りてんのに食べログ評価が上がってくるまでなんで気づかなかった俺!? 中野から引っ越す直前、今年2月に初めて訪れたのが、今回激烈オススメする『LABO麺』です! いや、『LABO麺』です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(エクスクラメーションマークを何個つけても足りないというニュアンスでご理解ください)。

 JR中野駅南口から徒歩1分、洒落た飲食店が軒を連ねる中野南口レンガ坂に2014年開店した古民家風ビストロの名店『root』が、コロナ禍の打開策として2020年4月に業態を一部ラーメン屋に変更。それが『LABO麺』です。店先の看板の文言をそのまま引用しますと、「フレンチ出身のシェフが、豚骨と昆布の旨味を丹念に抽出した極上清湯豚骨スープ」とのことで、上品かつやさしい味のためなら死ねる俺が行かない手はありません。もちろん吸い込まれるように入っていき、店の看板メニューである『特製白醤油ラーメン』を前のめりに注文。かくして出てきた白醤油ラーメン、スープが澄みきりすぎていてもうこれはスープに顔突っ込んで汁内で目をパチクリさせると視力が良くなるんじゃないかというくらい澄み澄みに澄みまくりです。ではいただきま(ズズズ)、なんじゃこりゃあああああ!!!! ううっうっまいいいいいいっっ!!!!! なにこれこのスープ!! まず、豚骨なのにクリアって! そう、もうそこでフレンチの技法が導入されておりましてですね。普通豚骨は割ってグラグラ強火で煮立てるとおなじみの白濁した豚骨スープが出来上がるわけですが、こちらなぜ透き通っているかというと、フレンチの技法であるクラリフェしているから。白濁した豚骨スープに昆布スープを合わせたところに鶏の荒挽肉を投入し、挽肉のタンパク質に不純物を凝固させてスープを澄ます技法なのだそう。もうね、みだりに口に出して言いたいフランス語ですよね、せーのっ、「クラリフェ!」(適当なヴォーギングに合わせて)。特製白醤油ラーメンの具材には低温調理塩豚ロースチャーシュー、鴨のロースト、味玉、細い姫竹、鎌倉生麩、味変用に添えられたポルチーニのヴルーテ、カダイフが優雅に散りばめられ、生麩から後半どんなものなのか想像つかない方がほとんどかと思いますが、ひと言でいうと「うまい」ってことです! とにかく豚+昆布+鶏ひき肉のスープがさっぱりしているのに旨味が濃厚で、江戸時代からの手桶製法で土水塩にこだわり長期熟成された愛知県『七福醸造』の白醤油を使用する辺りまで、フレンチのシェフが素材にこだわりまくって作り上げた究極のラーメンという感じで、店の看板メニューなのも納得です。
 しかし! 今回何が何でも爆裂オススメしたかったのはこれじゃないほう! まだあるの、さらにおいっしい~いのが(※あくまで個人の感想です)(※そしてこれは個人の感想だけで成り立ってる食狂コラムです)!!
 今年の2月4日の昼に特製白醤油ラーメンをいただき、あまりに美味しかったのでこれは月替りの限定メニューも食べておかないとと思い、数時間後胃袋に空きができた頃合いを見計らい夕方再訪(頭おかしいかもですが俺的にはよくあることです。美味いものは連食しないとまた食べたすぎて夢に出てきて大変なんで)。注文したのは『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』。材料を明記したメニュー名、店先で見た料理写真から俺の脳内の長井秀和が「間違いない!」と言ったのでもうこれ食べるのしょうがないの。注文から数分後、意外と早く提供されたのがはいこれドン! 『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』!

『LABO麺』の『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』

 ぎゃあ~もう好き~この色味と香りだけで降参ですごめんなさい! 土下座するからこれ食べていいですか(ここにはいない誰かに向かって)? あ、何もしなくていいから食え(ここにはいない誰かからの許可が出た模様)? ではいただきま、ズズズ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ハッ! 旨すぎて2秒ほど気絶していたようです。
 そろそろ表現がうるさくなってきましたので、ここからは真面目に記します。しじみとあさりの貝出汁に昆布の出汁、清湯豚骨のトリプルスープは旨味甘み妙味が美味+美味+美味で美味いの相乗効果波状攻撃を受けもう倒れそう。伊豆大島の伝統海塩『海の精』を使用、塩ってこんなに美味いのかという驚きとともに舌の上にスープ悦楽の温かな大海原がたゆたいます。香りづけの鶏油と白トリュフオイルでより複雑にして繊細な料理として完成していきますが、何より特筆すべきは生々しい色味の鮭マリネのチャーシュー(店の説明ママ)。これにはタンパク質が凝固しないよう50℃で低温調理するミキュイというフレンチの技法が生かされており、のどごしがたまらない中細麺と旨味の大海スープ、そして焼魚でも煮魚でも生食でも味わえない未曾有の柔らか食感ミキュイ鮭を一緒に啜ると、脳は天国を知ることになるでしょう。他の具材には低温調理鶏胸肉チャーシューと黒トリュフ、水菜ブロッコリースプラウト白髪ねぎ。トリプルスープの旨味とミキュイした鮭が舌の記憶に残る至高の逸品。間違いなく今年上半期で食べたものの中でベストです。しかも、贅沢にトリュフまで使ってるのにお値段1,000円ってもはや狂気の沙汰。食べない理由があったら教えて。いや、ホント。
 この『しじみとあさりの塩トリュフらーめん』、本来ならば1月2月の限定ラーメンとして提供されていたものなのですが、Twitterで俺が散々うまいうまい言っていたところこれ目当てのお客様が急増、結果3月からレギュラーメニューに昇格! やったー! 美味しいものがあったら美味しいと声高に言い続けることの重要性を改めて知った次第。現在メニューに写真がないためか、メインの白醤油ラーメンに比べてあまり出てないようなので、中野に近い方はぜひ。イメージとは違い上品かつ繊細な料理を愛好する自分にとって、しばらくこれ以上のものはない気がするのです。

『LABO麺』の前で

掟ポルシェ 通販サイト開店!

『掟ポルシェ泥棒市場』https://okite.theshop.jp/

掟ポルシェ

おきてぽるしぇ●1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド、ロマンポルシェ。のボーカル&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』ほか、8枚のCDをリリース。音楽活動のほかに男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』など多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン・ファイブ)、『出し逃げ』(おおかみ書房)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)がある。そのほか、俳優、声優、DJなど活動は多岐にわたるが、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。