TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【引退試合を振り返って(part.15)~肘で「斬る」~】

連載・コラム

[2016/7/19 17:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


得意の肘で「相手を斬る」

野次が飛ぶなかでの引退試合ってのもなかなかないだろうなと思いつつも、ディフェンス重視の展開を続けていた俺。そんな攻防の中、体勢が入れ替わり相手選手がコーナーを背負った瞬間があった。

「ここだ!」

俺は間髪入れずに飛び込み、肘を2発3発と振るっていった。ガチン!ガチン!と対戦相手の頭部に肘の先端が当たる感触が伝わってくる。

一瞬の交錯が終わり離れてみると、対戦相手の頭部からは血が流れ落ちてきていた。

「斬ったな」

カットの成功に気づいた俺は肘を挙げアピールした。頭頂部から流れ出る血の生温かさで斬られてしまったことに気付いたのだろう、相手は逆転すべくすごい勢いで襲いかかってきた。

血をダラダラと流しながら襲いかかられるのはいい気のしないもので、正直「うわっ、怖っ!」と思ってしまった。あとで映像を見返してみると、優勢なはずの俺がその瞬間は若干及び腰になってしまっていた。

しかし、どうにかその攻勢はやり過ごしたところで、レフェリーがドクターチェックを指示した。相手選手はリングドクターに傷を診てもらうことに。キックボクシングでは肘での攻撃が認められていて、これを相手に叩きつけてダウンを奪うこともできれば、顔面や頭部を切り裂き、その傷が大きければドクターストップとなりTKO勝ちを収めることもできる。肘での攻撃は俺の得意とするもののひとつだった。

このときはストップされるほどの傷ではなかったが、斬られた本人はその傷を見ることもできずにそのダメージの程度がわからない。再開がかかっても「また同じ箇所を攻撃されたら傷がひろがり、ストップがかかって負けてしまうかも」とプレッシャーから焦ってしまい、攻撃ばかりに気がいくあまりディフェンスが雑になることも多い。

実際これまでも「相手を斬る展開」になれば、負けたことはほとんどなかった。

会長から初めての「お願い」

このあともクリーンヒットをもらうことなく、試合をコントロールしながらラウンドを終えた。セーブしたペースで試合を進めているために、インターバルで自陣である赤コーナーに戻っても自分に息の乱れがないのがわかった。

しかし会長は焦っていた。

「どうした?もっと手を出せ! もっと色んな技を見せてくれよ。頼んだぞ!」

何だか変な気持ちだった。インターバルで指示ではなく「お願い」をされたのは初めてだったからだ。そして第3ラウンドが始まった。

さすがにこのままでは僅差の判定での勝負になりそうだったので、多少強引にでも攻撃を仕掛けようと決めて自陣コーナーを出た。ある程度の交錯があったあと、俺はそれまで蹴っていなかった左ミドルキックを蹴ってみた。当たれば相手のレバーを直撃するし、相手が腕でガードするような選手であれば、その腕を壊せる。しかし、相手も上位ランカー。腕ではなく、上手に足でカット(防御)してきた。

「へー、やるな」

足でカットするためにはある程度速い反応が必要で、それだけの高いレベルを持った選手ということだ。

「じゃあ、これはどうだ?」

俺はある仕掛けを思いつき、実行に移した。

<次回更新は8月2日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]