TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【引退試合を振り返って(part.8)~打ち合わせの連続~】

連載・コラム

[2016/4/5 15:11]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


『バンドとキックボクシングのマネージメントの差』
ニンニク注射を打つという儀式的行為を終え、近くに停めおいた自分の車に戻った。クリニックはいつも混雑していて待合室でも立っている時間が長いため、少々疲れた俺は車中で少し休みたかった。しかしそれはできない。

この日行われる引退試合、そしてそのあとに行われる引退式に関連する事項で細かく決まっていないことがいくつかあった。それを携帯でやりとりしながら、各関係者と決めていく。

この引退試合にはありがたいことにアイドグループ「ベイビーレイズJAPAN」の メンバーも忙しい合間を縫って、後楽園ホールに駆けつけてくれるという。しかも、試合の10日ほど前に彼女たちの番組にゲストで呼んでくれた際、メンバーの愛夏(林愛夏)が歌っちゃいます?」と冗談交じりに言ってくれたことなどもあり、実際に「チャンピオンベルトを掲げて竹村と一緒にリングイン」「引退式でのフォトセッション」を行うことが後日決まった。

ただ急遽決まったその進行に付随する細かいことをどうするか? バンドであればマネージメント料を取っているマネージャーが各所と打ち合わせ、お膳立てがすべて整ったところでバンドは出て行き、演奏すればいい。だがキックボクシングは違う。マネージメント料を取るもののジムは試合を組むこと以外、基本的に何もしない。例外的なジムもあるだろうが、基本的にはこんなもん。

「バンド」というスーパーでは「10万円出せば高級フルーツのセット、キレイなラッピング付き」マネージメントを買えるが、「キックボクシンング」のスーパーでは「10万円出して大根を5本、ビニール袋もなしに裸で渡される」マネージメントだ。

ゆえに「直前スケジュールを終えたベビレメンバーは何時に来場するか」「来場後の案内は誰がするか」「キャリーバッグなどのメンバー荷物がある場合はどこで預かるか」「フォトセッション用の着替えがある場合はどこを使うか」「万が一に備え、警護役は誰がするか」「メンバーとのフォトセッション中のBGMはどうするか」「ベビレ紹介アナウンスの原稿」などなど、数時間後に控えた試合はさておき、選手本人が各所・各人それぞれに連絡を取り決定していく必要があった。

無事に行われたベイビーレイズJAPANとのフォトセッション

『最後の試合にも関わらず打ち合わせが続く』
車中でのもろもろが終わったのは15時半くらいだったか。16時半からは後楽園ホールでの最終打ち合わせがある。

俺は慌てて後楽園ホールへ向けて、車を走らせた。途中のタリーズで甘いココアを買い、エネルギー補給のダメ押しをする。これも試合前のいわゆるルーティンワークだ。

そして後楽園ホールに着く。俺はこの日引退試合ということで、特別にホール真下にある関係者用駐車場の使用を許されていた。普段は近隣の有料駐車場で空いているところを探し駐車していたので、この計らいは非常に助かった。

駐車場からホールに行くときは多少離れていても構わないのだが、問題は帰りだ。試合のダメージがあったりすると1歩1歩がとんでもない激痛になることもある。でもホール真下の駐車場に車があれば、その心配は杞憂だ。

そこに駐車し、ビル5階にある後楽園ホールに上がり控え室に荷物を置くともう16時半。打ち合わせの時間だった。打ち合わせ場所であるリングサイドに急ぐと、興行スタッフの方々がすでに集まっていた。「本日はよろしくお願い致します」と挨拶をし、打ち合わせはスタート。

引退試合、そして引退式を執り行うための最初で最期の打ち合わせだから、漏れのないようキッチリやらねばいけないのだが、俺は気もそぞろ。すぐ隣のリング上では出場選手たちが試合前のアップに励んでいる。

当日のリングマットの滑り具合、ロープの張り具合を確かめるために俺も早くリング上でアップをしなければならない。17時には開場してお客さんが入ってくるため、リング上でアップできる時間はごくわずかなのだ。

<次回更新は2016年4月19日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]