TAKEMURA(SNAIL RAMP)『43歳のバンドマンチャンプ』【引退試合を振り返って(part.7)〜ニンニク注射は効くのか!?〜】

連載・コラム

[2016/3/15 11:55]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのメンバーでありながら、キックボクシングの日本チャンピオンに上り詰めたTAKEMURAの自伝的連載!


計量後に何を食べるかで勝負が決まることも
計量も無事パスした俺は計量会場をあとにし、自分の車に戻る。運転席のシート位置を後ろにずらし、ゆったりできる体勢を作ると家から用意してきた食事を食べ始めた。前回のコラムでも触れたが、ここで何を食べるかで勝負が決まることもある。それだけ大事な1食だ。

前回のコラムでは偉そうに「自分の対戦相手が食事で失敗した例」をあげたが、実は俺自身もしでかしている。あれは2回目のタイトル挑戦時、試合前のこの1食をいい加減な内容で摂ってしまったために俺は負けてしまったと言っても過言ではない。試合の毎に自分の身体を使い人体実験を繰り返して決めていったメニューを「あー、これが食べたい」という安易な理由だけで変えてしまったのだった。

すると身体は正直なもので4Rから大失速。最終の5R目には完全に動けなくなり、文字どおりのフルボッコになったうえにハイキックでアゴを折られ、ベルトを逃しただけでなく手術、入院、回復待ちで10ヶ月の戦線離脱という結果を招いた。

それからというもの、コンディション作りに関しては、どんな些細なことでも自分にとって最良と思われる方法を必ず実行、踏襲するようになった。試合前の毎日の中でも「あれを摂って、これを摂って」と実行していくのはかなりの手間で、正直「メンドクセー!」ともなるが、タイトルマッチという大事な試合で大失態を犯した経験は、面倒くさいことも淡々とこなすモチベーションと変化した。

そして面倒くさいことのひとつには、いわゆる「ニンニク注射」もあった。ここ10年ほどはさまざまなアスリートが取り入れているのが表に出るようになり、メジャーになった施術だ。最近話題になった清原和博氏もニンニク注射を受けていたようだが、アレに比べるとどうなんですかね。俺はアレをアレしたことがないのであれなんですがね。

「ニンニク注射を打つ」という儀式

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さて、そのニンニク注射、「疲労回復」をうたっていることが多いので「ニンニク注射を1発打ったら、もう大丈夫!体力回復、スタミナもバッチリ!」みたいに誤解している人も多い。含まれる成分はクリニックごとに違うことが多いので一概には言えないが、主成分はビタミンB1で要はビタミン注射。この注射で期待どおりの効能を得るには、体内に注入するだけではダメなのだ。

主成分のビタミンB1は、「摂取した炭水化物を糖に分解後、エネルギーとして吸収」するときに有効な働きをしてくれる栄養素なので、「元気、スタミナもバッチリ!」となるためには炭水化物(ごはん、パンなど)もきちんと摂っていないと、お話しにならない。

「あんパンが食べたい」と言ってる人にパンだけ渡してもダメだし、あんこだけ渡してもダメ。両方が揃って初めて「あんパンを食べたいという目的を果たせる」ということだ。んー、例えがちょっと微妙になったのは正直反省している。

さておき、試合当日のスケジュールとしては「朝10時に計量」「リカバリーのための食事」「ニンニク注射を打ちにいく」のが一連の流れとなっていたが、俺が注射を受けにいくクリニックは手頃な価格で施術してくれるのに土曜も営業していることもあって、いつも混雑。

時間は取られるし、何だかちょっと疲れるしで、面倒な作業のひとつとなっていたのだ。しかも正直に言っちゃうと、ニンニク注射を打ったからといって「うぉぉお!すっげぇ効いてるぜ!」と感じたことはない。ただの一度もだ。

でもサプリメントもそんなもの。それを摂ることで向上するパフォーマンスが1%だったりしたら、まず体感ではわからない。ただ「サプリを摂らないこと、ニンニク注射を打たないことでパフォーマンスが下がるんじゃないか?」という恐怖の方は強い。だから打ち続けざるを得ないし、そういう意味ではドーピンングをしてしまうアスリートの気持ちもわからないでもない。

まあ幸か不幸か現代の日本のキックボクシングはお金にならないから、大金がかかるドーピングをしようって選手はほぼいないだろうし、もちろん俺もしたことがない。そんなクリーンな状況下、選手たちは各々手探りで情報を集め、コンディションを作りあげる。それが日本のキックボクシング界の現状だ。

そしてこの日も移動と施術に2時間弱ほど使い、「ニンニク注射を打つ」という儀式を俺は終えた。(続く)

<次回更新は2016年4月5日(火)予定!>

【著者紹介】

TAKEMURA(竹村哲)
1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中だ。

[耳マン編集部]