遠藤ミチロウ×峯田和伸(銀杏BOYZ)『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』トークイベントの全貌をレポート!

特集・インタビュー

[2016/1/31 12:00]

遠藤ミチロウが初めて監督を務めたドキュメンタリー映画『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』が1月23日より新宿K's cinemaにて公開スタートとなった。同作は遠藤のライブツアーの旅と、行く先々で出会った人々との対話を収録したロードセルフドキュメンタリー。自身の代表曲『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』にも込められた母への感情も赤裸々に語られている。映画の公開にともない、公開初週に遠藤と日替わりゲストによるトークイベントが開催された。ここでは1月28日に行われた銀杏BOYZの峯田和伸とのトークの全貌をレポートする。

トリビュートアルバム『ロマンチスト〜THE STALIN・遠藤ミチロウTribute Album〜』(2010年)に銀杏BOYZが参加したり、ライブで共演を果たすなど兼ねてから親交のあったふたり。日本のロック界でカリスマ的人気を誇る彼らの貴重なトークをぜひお楽しみいただきたい!

左から峯田和伸、遠藤ミチロウ

今だって、この映画、おふくろには観せたくないなぁって思ってるもん――遠藤

遠藤:どうも、今日はありがとうございます! 銀杏BOYZの峯田くんです。
峯田:どうも、峯田です! 呼んでくださってありがとうございます。
遠藤:こちらこそ、ありがとうございます。
峯田:いやぁ、お元気そうで。今年もよろしくお願いします。
遠藤:はい、お願いします。

遠藤ミチロウ

峯田和伸

遠藤:去年9月にいわきで初めて一緒にソロでライブをやったんですけど。
峯田:楽しかったですねぇ。
遠藤:初めて峯田くんのソロのライブを観て、すげぇなぁと思って。ぶっ飛んでる感じがもう……。
峯田:いやいや……。アンコールで今の映画の最後にも流れた『Just Like a Boy』を一緒にやれて、本当に嬉しかったです。
遠藤:峯田くんには僕の還暦のときのトリビュートアルバムで『Just Like a Boy』を歌ってもらってるんだよね。
峯田:はい。僕、初めてミチロウさんの音源を聴いたのはスターリンではなくて、遠藤ミチロウのCDだったんですよ。ソロになってからの。それで初めて高校で聴いたのが『Just Like a Boy』で、そこから後追いでスターリンのCDを聴くようになって。最初のインパクトは遠藤ミチロウでした。
遠藤:あぁ、そうだったんだ。
峯田:はい。なので、すごい好きだったので、あの歌を一緒にできると思ってなくて、本当に良かったです。
遠藤:最初はね、この映画も震災が起こらなかったら、『Just Like a Boy』っていう曲をテーマに、僕のいわゆる還暦のロードムービーを撮ろうと思って撮り始めたんですよね。
峯田:あぁ〜なるほど。
遠藤:そしたら震災があったんで内容がこういう風になっちゃったんですけど。なんか、さっきも楽屋で話したんですけど、家に帰る……
峯田:玄関で。あれはきっついですよ(笑)。僕も本当帰ってないんで、山形、実家には。きっついんですよ。
遠藤:なんかね、要するに家とか実家とか故郷とか、それに対する感覚がすごい同じなんですよ。環境的なところもそうだしね、なんか……嫌だっていうね。
峯田:はい。だから、あのシーンが1番きっつくて。僕、映像いただいて家で観たんですけど。“母さん、母さん”って呼んでも出てこないじゃないですか。もう、あの玄関のつくりも一緒なんですよ。山形なんですけど。もう、本当きっつくて。もうミチロウさんも、その、本当にウーッて歯を食いしばってじゃないと家にあがれない感じがすごい伝わってくるものがあって。なんて言うんですかね、ちょっと違うかもしれないですけど、高校生まで実家にいて、別にボンボンでもねぇしド貧乏でもねぇし、普通の、本当に普通の家で。別に暴力をふるうとかでもないし、本当普通の家だったんですけど、なんかいづらかったって感覚はあって。それで東京に出て音楽をやろうと思ったんですけど。今回の映画を観て、そのミチロウさんの玄関の場面とかを観て、本当に苦しかったです。
遠藤:俺もね、やっぱ家のシーンていうのをどういう風に出そうかって、この映画で1番の悩みじゃないけど迷ったところで。“うわぁ〜こんなとこ出しちゃっていいのかなぁ”みたいな。でもやっぱり監督としてはそういうとこほど出さないと、作品がねぇ。
峯田:あぁ〜、1番言いたいところを。
遠藤:そうそう。
峯田:はぁ〜、俺まだできねぇなぁ……。
遠藤:いやいやいやいや(笑)。ねぇ、ステージでチンチン出すのとは違って、“恥ずかしいところを出さなきゃ”みたいなところも、すごくね。
峯田:すごいっすねぇ……。この、映画のタイトルにもなってるこの曲あるじゃないですか、『お母さん、いい加減 あなたの顔は忘れてしまいました』。この曲を初めて聴いたときも、様式美としてのパンクではなく、その、何ていうのかな、“誰も簡単に口に出しちゃいけないけど、どこか奥底では思ってるようなこと”とか、“これ言ったら親戚一同から白い目で見られるけど、どうしても言わなくちゃいけないこと”とか、“これ言わない限り、俺もうステージに立てない”みたいな覚悟みたいな。この曲を聴いて、まだ高校生だったときは、“すごい人だな”って思ったんですよ。でもそれが、今俺も38歳なんですけど、20年経ってこれをもう本当に絵空事ではなくて、パンクとかどうだってよくて、映像として“本当にダサいところだけど、映像として収めないと気が済まねぇ、死ねねぇ”っていうのが伝わってきて。それを映画にしたのがハイライト。“これをもう出さない限り俺は、この曲を出したアレがない”っていうのが伝わったという気がしたんですよね。それで、すごいなぁと思って。
遠藤:今だって、この映画、おふくろには観せたくないなぁって思ってるもん。
峯田:んー、でも観に来ますよ。
遠藤:いや、来ないと思う(笑)。ハッキリ言えないよね、こういう映画なんだって。あのとき撮った映画でしょとか言ってたんだけど。

お母さんと、あの……僕やっちゃった夢見たことあるんですよ――峯田

峯田:リアルタイムではスターリンを経験できてなかったんですよね、僕1977年生まれなんで、子どもの頃だったので。でも、一般のスターリンのイメージってやっぱり衝撃的で、なんか事件を起こして捕まったりとか、裸になるとか。だから普通の人っていうのは、“あのボーカルの遠藤ミチロウっていう人はちょっと壊れてて裸になるのも恥ずかしいと思わなくって”、みたいなそういうイメージがあると思うんですけど。でも俺は貞操観念が普通の人よりもものすごく強い人だと思ってます。
遠藤:あ、俺が?
峯田:うん。
遠藤:貞操観念?
峯田:貞操観念。だからまだ童貞なんじゃないかって思ってます。
遠藤:ハハハハハ! 確かに遅かったですけどねぇ。ハハハハ!
峯田:それぐらいの、きれいすぎてその、何だろなぁ……そこからの逆ギレというか。
遠藤:うんうん、あえて汚くする、みたいな。
峯田:“中途半端だったら俺が全部ブッ壊してやる”みたいなところでやってたのかなぁ、という気もするんですけど。でも本当に、お母さんに対する、その、ミチロウさんが自分で自覚しているかどうかっていうのはわからないんですけど、僕が自分のお母さんに対して思ってることにもしかしたら近いのかなぁとも思うんですけれども。確認してみたいのは、お母さんに対する“嫌いではないんですけど、でもここに……隣にいるだけでちょっともうきつい”感じってあるじゃないですか。
遠藤:うんうん。
峯田:あれっていうのは、その、恋愛感情みたいのはないわけですよね? もちろんねぇ。あるけど、蓋してる感じなんですかね? “こう言っちゃだめだ”みたいな。
遠藤:恋愛感情っていうと、まあ普通に恋愛のことを考えるけど、母親に対する感覚っていうのは、恋愛感情……
峯田:1番自分が好きな女性なんじゃないですか? この世の中で。まだご存命で、お母さん。生きているうちはわからないと思うんですけど、もしかしたら1番この日本というか世界で好きな女性、もしかしたらお母さんなんじゃないかなぁと思って。
遠藤:そう、だから、あれだよね。自分でもわかんないけども、実はものすごく自分がそういう影響を受けて、こう今の自分がいるんだっていう。ひょっとしたらそこに、その感じっていうのは自分でもわかんないのかもしれない。本当は好きなのかもなーみたいな感じはあるんだけど。何て言うんだろう、でもやっぱりおふくろっていうのは、自分が女性を見るうえでの1番のアレになってるよね。そう、なんか、指針じゃないけど。
峯田:お母さんと、あの……僕やっちゃった夢見たことあるんですよ。
遠藤:本当ですか!?
峯田:ありませんか?
遠藤:ない。
一同:笑
峯田:俺、その日に気付いた、その夢で気付いたんですよ。
遠藤:あぁ〜、じゃ、それはもう本当にそうなんだね。その、本質のところでは。
峯田:どうなんでしょうね。それまでは別に好きとか考えたことなかったんですよ。で、ある日、ずっと前ですけど……お母さんが若い頃のお母さんなんですよ。俺がチューして、うわぁっつって、間違いなくお母さんなんですよ。で、起きてからが大変で。取れなかったんですよ、頭のなかで。ちょっと1日、もうどうにもならなくて。お母さんと寝てしまったっていうのが取れなくなって。そっから、電話もしづらくなったし、お母さんに。
遠藤:あぁ……意識しちゃったんだ(笑)。
峯田:なんか、でもどうなんだろうなあと思って。みんな思ってる感覚なのかなって。
遠藤:その夢を見て起きたとき、なんか“嫌な夢を見た”って感じ? それとも“あぁ、いい夢見ちゃった”みたいな?
峯田:……不思議な感じでしたね。
遠藤:不思議な感じ?
峯田:それまでそういう目で見たことなかったんで、お母さんを。で、気持ちよさそうにしてるんで、僕のことも好きみたいだし、やっぱり。
遠藤:ふははははは(笑)。
峯田:その、自分のなかでどう処理したらいいのかわかんなくて、その夢を見てから。
遠藤:俺より根が深いね、多分ね。ハハハハ(笑)。お父さんに対してはどうなの?
峯田:何もない、まったく何もないですね。お父さんに対しては何もない。でも、尊敬はしてますけどね。お母さんがちょっと根深いですよねぇ。
遠藤:俺やっぱり自分の人格形成のなかで、結構父親っていうのはすごいでかくて、色んなこと考える1番最初のきっかけ全部父親だったから、うん。
峯田:へぇぇぇ。お父さん亡くなられたときって、結構きつかったですか?
遠藤:きついっていうよりも、でもまぁ84歳で亡くなったんで、まぁよく生きたなっていう感じ。
峯田:あぁ、でもなぁ、多分絶対お母さん好きだと思いますよどっかで。
遠藤:うーん、そうかねぇ。なんか、そう言われるとわかんないけどねぇ(笑)。
峯田:でも、自分のライブを自分の親に観られるのも、ちょっとやっぱり……絶対来ないでって僕言いますし。今回の映画も、1番どっかで観てほしくないんだけど、1番どっかで観てほしいっていうのがあると思うんですよね。うん、なんか、“どう思うのかなぁ、お母さんが観たら”とか。
遠藤:そうだよね。
峯田:この歌をつくったとき、どう思ったんですかね、お母さんは。
遠藤:いや、まだ聴いたことないから、うちのおふくろ。
峯田:あ、そうですか? それ、知らないふりしてるかもしれないけど、ということ?
遠藤:いや、聴いてない、聴いてない。
峯田:遠藤ミチロウの活動は知ってますよね?
遠藤:知ってる。で、野球場のライブ(『8.15世界同時多発フェスティバル FUKUSHIMA!』/2011年)のときはおふくろ観に来てて、あれが唯一初めて俺のライブを観た……。
峯田:スターリン時代も含めて?
遠藤:そうそう。全部含めて。
峯田:何か言ってましたか?
遠藤:なんか、俺のこと言わないで、客のことばっか言ってて。“なぁに爆竹投げてるの”とか“なんであんなに頭振って叫んでるんだろうね”とか、なんかそういう感じ(笑)。俺のライブのことなんか全然言ってない。
峯田:ははは(笑)。そうなんですか!

遠藤:峯田くんは山形なんですけど、出身が。僕は高校まで福島で、大学で山形に行って山形にずっと8年くらいいたんですけど。だからその、峯田くんが山形に対する……まぁ実家に対する想いっていうのと、僕の福島に対する想いっていうのが、すごく似ているんですけど、僕の山形に対する想いっていうのが全然ね、違うんだよねぇやっぱ。自分が初めて一人暮らしした場所だし、すごい自分としては気持ちをおおらかに“あぁまた行きたいな”とか“帰りたいなぁ”みたいな感じがあるんだけど。
峯田:あぁ、うらやましいですね。
遠藤:千葉でしょ、大学で出てきたの。
峯田:はい、大学が千葉で。千葉は、“こんなにいい街あるのかぁ”と思いましたね、当時は。
遠藤:それは、誰にとってもそうなのかな。一人暮らししたところはみんなこう、すごいいい思い出になっちゃうみたいな。
峯田:そうですね、朝起きてまずお母さんの顔みなくて済むっていうのが。
遠藤:(笑)。
峯田:“早く起きなさい!”とか誰も言わないので、すごく、あぁやっと、よかったと思いました。今でも一人暮らしなんですけど、ずっと続いてます。20年くらい。

耳マン編集部