「NAMIMONOGATARI 2021がHIPHOPを殺す」~タケムラ アキラ(SNAIL RAMP)『炎上くらいしてみたい』

連載・コラム

[2021/8/31 12:00]

1990年代後半から2000年代のバンドシーンを牽引したSNAIL RAMPのフロントマンであり、キックボクシングで日本チャンピオンにまで上り詰めたタケムラ アキラが書きたいことを超ダラダラ綴っていく新連載!


本来ならSNAIL RAMPのHEY!×3初出演時の話の続編を書かねばいけないのだが、急遽後回しにさせてもらわなければならない出来事が起こった。各所ニュースをチェックしているみなさんであればすでにご存じの方も多いであろうが、8月29日に愛知県常滑市で『NAMIMONOGATARI 2021』(以下、NAMIMONOGATARI)というHIPHOP系の野外イベントが行われたのはまだしも、酒類の販売・飲酒、ノーマスク、密状態などといった現在のコロナウィルス感染予防の観点からいえばあり得ない状態が同イベントの様子を撮影した動画内でも散見され、大きな批判を浴びている。

初めてその様子を目にしたときは「え、ホントに?」と我が目を疑うと同時に、「あぁ……、やってしまったか」と落胆した。

イベントから一晩明けた8月30日の報道では、「愛知県国際展示場(常滑市)の野外会場で29日に音楽イベント『NAMIMONOGATARI(波物語)2021』が開催され、酒類が提供されたり、マスクを外した観衆が密集したりするなど新型コロナウイルスの感染防止対策が順守されていなかった」(毎日新聞8/30)

とその様子が一般全国紙で報道され、

「愛知県の大村秀章知事は30日の記者会見で『このフェスはもうこれで終わり』と厳しく指弾し、今後主催者に対し、県施設の利用を拒否すると述べた」(毎日新聞8/30)

と県を激怒させた。このイベントは全国規模のHIPHOPイベントのようで、主演者をみるだけでもJP THE WAVY、BAD HOPといった一般リスナー層を繋いでくれるアーティストから、ANARCHY、Awich、AK-69といった実力派、先日(というにはちょっと前だが)の逮捕でさらにそのイメージがアップした舐達磨、そして重鎮と言われるZeebra、般若なども出演。

HIPHOPに詳しくない俺でも知っているアーティストがこれだけ出演していることだけをみても、いかに大きい規模のイベントだったかがよくわかる。

そのイベントでしでかした最悪の失態。10年前、20年前と比べると明らかに一般の認知度があがった昨今のHIPHOPだったが、これがシーンに与えるダメージを考えると門外漢の自分ですら哀しい気持ちに包まれる。

ただそれと同時に「HIPHOPが、バンドシーンが得ているような市民権を獲得するにはまだ時間がかかるんだな」と深く思った。

かつてはバンドシーンも「安全なんて知ったこっちゃねーよ」的なイケイケで、各地でライブが行われていた。会場の収容人数などお構いなし、圧縮されようが酸欠で人がバタバタ倒れようがそれで主催者が青ざめることはなかっただろうし、ダイブで頭を打ち脳震盪を起こそうが腕の骨を折ろうが、「ライブってそんなモンだろ?」で主催、バンド、観客の大部分は納得していた。

しかし、起こるべくして事故が起きてからは「これはマズい」となり、会場側の規制とともに自主規制も意識的に行われるようになっていったのだ。そして、さらに時が経ち、いわゆる「フェス」形式のライブイベントが行われるようになると、安全面以外のマナーといった部分にも着目され始める。

そのひとつがゴミ問題だ。当初はフェス後、会場一面に広がる捨てられたゴミの光景がデフォではあったが、特にPUNK系のバンドが多く出演したり、そもそも主催がPUNK系バンドだったりするような野外フェスになると「ゴミは持ち帰ろう」や「所定の場所へ捨てる」といった事前アナウンスが徹底されはじめ、複数日程に渡って行われるような野外フェスのイベント後でも、ペットボトルひとつ落ちていないという奇跡のようなことが当たり前のように起こっている。

しかし、これはある日、突然偶然に起きたことではなく、バンドシーンの意識が進化し常々そういった発信をすることにより観客側の意識にも変革が起きた、ある意味必然の結果なのだろう。

翻って今回のNAMIMONOGATARIへの出演アーティストは、出演前にどれほどのメッセージを発信していたのだろうか。もちろん発信していたアーティストもいたのであろうが、実際に現場であの光景を目にしたときにどんな行動をとったのか。「これはヤバい」と思いつつも、「まぁやるしかないか」とステージに上がったのかもしれない。

仮にこれがPUNK系のバンドが出るようなイベントであった場合、バックステージでは「こんなイベントはおかしい」と主催者に意見する事態になっていたのではないか。バンドによっては「このままでは出演はしない」と宣言したかもしれない。もしステージに上がったとしても、そこから「全員マスクをしてほしい。そして声を上げたりはせずに楽しんでくれ」と強く呼びかけたであろう。

NAMIMONOGATARIでもそういった行動をとったHIPHOPアーティストもいたと信じたいが、イベントとしては是正されずに進行したのが現実かもしれない。

HIPHOPは強い魅力を放つ生き方であり、優れた音楽形態だ。PUNKとも根底では通ずるものがあり、だからこそ今の勢いを失速させる今回の失態が残念でならない。

せめて、あのイベントでコロナに感染してしまった方がひとりでも少ないよう真摯に祈りたい。

ローラと一緒に写るのは……あの有名ラッパーの息子!? めちゃくちゃ絵になるツーショット

ラジオ日本にてタケムラアキラ(竹村哲)のラジオ番組がスタート!

ラジオ日本『竹村哲のアキラめないで!』
放送時間:毎週日曜日 25時00分〜25時30分
番組HP:http://www.jorf.co.jp/?topics=akiramenaide

下記インタビューページ下部にて『竹村哲のアキラめないで!』のアーカイブを公開中!
https://www.894651.com/column/watashi-yorokobi

タケムラアキラ

竹村哲●1995年にスカパンクバンドSNAIL RAMPを結成。2000年にリリースしたアルバム『FRESH BRASH OLD MAN』でオリコン1位を獲得するなど、一時代を築く。バンド活動と並行し、2001年からキックボクシングを始め、2014年10月に43歳の年齢でNKBウェルター級チャンピオンに輝く。2015年12月12日には後楽園ホールにて引退試合を行なった。SNAIL RAMPは現在、“ほぼ活動休止”中。