【後編】1970年代東映映画の魅力〜オワリカラ・タカハシヒョウリが語る〜

特集・インタビュー

[2016/6/3 12:00]

【後編】東映映画から学ぶこと
後編では、前編で温まったグルーヴ感はそのままに1970年代の東映映画から現代の人々が学べること、名シリーズからのおすすめ作品、そしてオワリカラの音楽や今回のアルバムについて語ってもらった。こんなにも人を突き動かす1970年代の東映映画に、興味が出ること間違いなし!(ちなみにこの記事は東映の宣伝でも何でもなく、純粋に“好きだから”という気持ちだけで行ったインタビューである!)


タカハシヒョウリ


名シリーズのおすすめ作品

『さそりがついに不死身の存在に!「女囚さそり けもの部屋」』
———1970年代の東映映画では『女囚さそり』『トラック野郎』『仁義なき戦い』が人気ですが、それぞれおすすめの1作品を選んでもらえますか? まずは『女囚さそり』シリーズからお願いします!
『女囚さそり』シリーズは全部で4作しかなくて、しかも4作目だけ監督が変わっているので、伊藤俊也さんが監督している最初の3作に“さそり節”がすごくあるんですよね。で、僕は3作目の『けもの部屋』(1973年)が一番好きです。さそりシリーズのなかでも3作目は一番過激。1作目は、梶芽衣子さん演じる“さそり”(松島ナミ)が捕まってから復讐を果たすまでで、2作目『第41雑居房』(1972年)はいろんな女性が出て来る群像劇なんですけど。さそりって、回を追うごとに人間じゃなくなっていくんですよ。で、いよいよ3作目では概念的な存在になるというか、肉体を持ってない……ことになるんですよ。だからどんなことをされてもさそりは死なない、不死身の存在になっちゃう。フレディ(※)とか、ジェイソン(※)みたいな存在になってる。そこまで昇華されてるところがかっこいいですね。“やっぱりさそりは都市伝説にまでなったんだな……”っていう感慨深さもあります。この頃の梶さんの演技ですごいと思うのは、セリフとか言葉でストーリーを表現しないんですよね、そのぶん目で演技をするっていう。ほとんどしゃべらずにずっとにらんでたりとか、ちょっとニヤッて笑ったりとかっていうので表現されてるっていうのが、本当にすごいと思います。あとは梶さんご本人が歌う主題歌の『恨み節』(1972年)っていう曲もすごいかっこいい。梶さんの歌、いいんですよねぇ。

[※フレディ(・クルーガー)……アメリカのホラー映画『エルム街の悪夢』シリーズの登場人物]
[※ジェイソン……アメリカのホラー映画『13日の金曜日』シリーズの登場人物]


『恋あり、アクションあり、ギャグもあり……究極の娯楽作品「トラック野郎 御意見無用」』
———『トラック野郎』は全10作もありますが、どれがおすすめですか?
やっぱり1作目『御意見無用』(1975年)ですね。『トラック野郎』は究極の娯楽作品なんで、恋あり、アクションあり、カーチェイスあり、ギャグもあるしお下劣もあるし、もう全部の要素があるんですよね。僕は1作目から観たんですけど、1時間半くらいしかない映画なのに4時間ぶんくらい観たような気になってしまうくらい、たくさんのアイディアが入ってるんですよね。『トラック野郎』は最初と最後(1作目と10作目)が好きです。10作目は『故郷(ふるさと)特急便』(1979年)っていうやつで、これは『トラック野郎』ファンにとってはもう、最高の名シーンと言われているところがあって。主人公の菅原文太さん演じる星桃次郎って、すごい惚れっぽいんですね。『トラック野郎』には毎回マドンナが出てきて、桃次郎が必ず恋しちゃうんです。それで菅原さんっていうものすごい無骨な役者さんが、いちいちマドンナ役の女性に好かれようとして一生懸命おちゃめな行動をみせるのがめっちゃ笑えるんです。最終作の10作目のヒロイン・石川さゆりさん演じる小野川由香は、歌手を目指してる女の子で。それでほとんど初めてヒロインのほうが桃次郎のことを好きになるんですよ。それで最後ラストシーンの港で彼女が桃次郎に “私は歌を辞めて桃次郎と一緒について行く”って言うんです。そのときに桃次郎は “俺に惚れてる女は星の数ほどいるから、やめときな”って、彼女を置いて行くんですよ。桃次郎はその子のことが本当はすごい好きなのに、彼女の夢を応援するために恋を成就させなかったっていうシーンが最後の最後にあって、そこにやっぱり男気を感じて……そのシーンでファンはみんな泣くんですよ(笑)! あと『トラック野郎』は愛川欽也さん演じる“やもめのジョナサン”(松下金造)と、桃次郎がコンビなんですけど、そのふたりがちょっとゲイっぽい瞬間もあるんです(笑)。なんか、砂浜でふたりが半裸で汗かきながら相撲をとるシーンとかあって、それが舐め回すようなカットで撮られたりしてて、“このシーンいるのかな?”っていう(笑)。そこもきっとサービス精神だと思うんですけどね。友情……行き過ぎた友情みたいなことを描いてるのかな……? でも“これ、いるかな?”ってすげぇいっつも思う……(笑)。でもやっぱり1作目にすべてが詰まってるんで、まずは1作目を観てほしいです。『トラック野郎』は当時、盆と正月に上映されてて、そういう休みのときに映画館に行って難しいこと考えないでゲラゲラ笑って観る、っていうような映画なんで。だから、疲れてるときとか寝る前とかに観るとストレス解消にもなりますよ!


『“映画史上最も強烈な男”大友勝利にシビれる!「仁義なき戦い 広島死編」』
———『仁義なき戦い』はどうでしょうか?
2作目の『広島死闘編』(1973年)かなぁ。『広島死闘編』はやっぱりもう、千葉真一さん演じる大友勝利っていうキャラクターが出てくるんですけど、これがもう超強烈キャラで、本当にヤバい……映画史上最も強烈な男と言われているぐらい(笑)、すごいキャラクターなんで。やっぱり大友の無軌道っぷりが最高ですね。超下品だけどある意味すごい的を射ている名セリフがあって。 “俺たち美味いメシ食って、マブいスケ抱くために生まれてきたんじゃないの”と。“そのためには銭がいるんけぇ”っていうセリフなんですけど、それがやっぱり……“まぁ、そうだよな”みたいな(笑)。ある意味真理を言ってる、すごく風通しのいいキャラなんですよね。『仁義なき戦い』シリーズは広島やくざっていうのが主役なんですけど、最終的には没落してみんな引退したりとか隠居していかなくちゃいけない運命を辿っていくんですね。そういうなかで大友は本当に破滅型で、やり切って消えていくところがかっこいいですね。『仁義なき戦い』って全部で5作品あるんですけど、ほかの4作は全部群像劇で2作目だけちょっと異色作なんです。菅原さん演じる広能昌三が主役なんですけど、2作目だけ北大路さん演じる山中と大友が中心のストーリーで、山中の奥さんというか情婦役が梶さんで。その3人が素敵だし、ほかの作品と比べて人物関係もややこしくないので、そこから観始めると『仁義なき戦い』シリーズはわかりやすいかもしれないですね。『仁義なき戦い』がすごいのは、死んだ人が別の役で出てくる……っていうスターシステム(笑)がものすごい多いんですよ!(笑)。梅宮辰夫さんが毎回違う役で出てるし、松方弘樹さんも死んだら眉毛なくして違う役に……“眉毛なくなってるだけじゃん!”みたいなこともあります(笑)!

東映関連の書籍は本人の私物!


東映映画の役者/登場人物が教えてくれるもの

『男は菅原文太演じる広能昌三から“仁義”を学べ!』
———1970年代の東映映画から現代の人々が学べることって、どんなことがありますか?
そうですねぇ、僕は『仁義なき戦い』だと5作目の『完結編』(1974年)も好きで、この作品はそれまで出て来たやくざ組っていうのはもう時代遅れなんだっていう、“もう俺たちの時代じゃないんだ”って次の世代にバトンタッチするという、ある種寂しい映画なんですよ。それで小林旭演じる武田明っていう広能のライバルのキャラクターが最後、広能に“もうわしらの時代も終わったけぇ、今度酒でも飲もうや”って言うんですよ。そしたら広能が“いやお前とは飲めん。死んでったもんにすまんけぇのぅ”って言うんですよ! それがめっちゃかっこよくて! だって普通の人だったら、絶対そんなの飲んじゃうじゃないですか!(笑)。なんだかんだ言って“最後は仲良くなろうぜ”っていう風になるじゃないですか。でも広能は最後まで不器用で、“死んでった人たちのことを思ったら、敵だったお前と酒なんか飲めないよ”って最後の最後まで貫くんですよねぇ。やっぱりそこでみんな泣くんですけど、仁義ファンは(笑)。 広能の、不器用でも仁義を通すというか “義に生きる”っていうかっこよさは、少しでも今の時代のどこかに生きてたらいいなって思うし、自分もどこかで持っていたいなって思うところです。


『女は個性あふれる東映女優の“潔さ”を!』
———女性も学べるところはありますか?
1970年代の東映映画に出てくる女性像って2パターンあって、梶さんのように寡黙で筋が通ってる女性像と、池玲子さんや渡辺やよいさんとか、『仁義の墓場』(1975年)っていう映画に出てくる多岐川裕美さんとか、ひし美ゆり子さんみたいな、コケティッシュでセクシーな女性像に分かれると思うんですね。僕はやっぱり梶さんも好きなんですけど、どちらかというと後者のタイプの、女を謳歌して女らしさをすごく楽しんでるみたいな、そういうキャラクターがすごく好きです。その頃の東映女優さんって、1970年代が終わったら役者を辞めた方がすごい多くて、ひし美さんも渡辺さんも結婚して引退してるんですけど。その、パッと咲かせて去って行く感じがすごくイケてますね。カラッとしてて明るくて、潔さを感じます。今って逆にいなくなりましたよね、そういう女優さんっていうのは。やっぱり演技を良くしたいとか……そりゃあそうだと思うんですけど(笑)……多くの人が“ちゃんとしなきゃ”っておりこうさんになりがちじゃないですか。でもこの時代の女優さんって “あたしは顔が可愛くておっぱいも大きいから、しばらく脱いであとはもう辞めます!”みたいな(笑)、潔さが感じられてグッとくるんですよね。それを男たちがすごく大事なものとして扱ってるというか。そういう“儚さ”をフィルムに撮るっていうことに命を賭けて、キレイに撮ろうとしてるっていうのが、映画を観てると伝わってくるのも素敵で。あと1970年代のファッションや髪型やメイクは現代の女性が見ても可愛いと感じるんじゃないかと思うし、魅力的だと思います!


タカハシヒョウリ・オワリカラが作る音楽への影響

『本当はもっとやり逃げたい』
———タカハシさんがご自身で音楽を作ったり表現するにあたって、影響を受けた部分はありますか?
菅原さんが“深作欣二映画はフリージャズだ”って言ってるんです。譜面があるクラシックのオーケストラのように演奏するんじゃなくて、ひとりひとりが持ってる必殺技をどんどん出し合って重ねていって、それを映画にしていく、みたいな。僕もそういったやり方で音楽を作るのが好きで。そういう無軌道でありながら最終的にはちゃんと調和する、っていうやり方には影響を受けてますね。


———音楽を作る・表現するうえでの精神性みたいな部分でも影響を受けましたか?
そうですねぇ。本当は僕も、岡田茂(※前述した数々の名作を生み出した東映の社長、のち名誉会長)さんくらい軽薄になりたいんですよ。とにかく、海外で『スターウォーズ』(1977年〜)が流行ったら『宇宙からのメッセージ』(1978年)っていう映画を撮るし、怪獣映画が流行ったら『恐竜・怪鳥の伝説』(1977年)っていう映画を撮ったり。海外で流行ったものを即パクるみたいな節操のなさ。でも“楽しませたほうが勝ちなんだ、映画なんて残るもんじゃないから”っていう考え方なんですよね。まさかこんな風にDVDになって、1985年生まれの俺とかが2016年に語ったりするなんて(笑)、まったく思わずに作ってたと思うんです。やっぱりその“やり逃げ感”が最っ高だと思うんで。だから僕も本当はもっとやり逃げたいんですけど、今はもうやり逃げられなくなってるじゃないですか、全部残るし。ネットもあるんで。だから“やり逃げたいな”と思いつつ“できないな”って思ってますけどねぇ(笑)。


『ついに秘密はあばかれた』の聴きどころ

『深作欣二のフィルモグラフィーみたいなアルバム』
———そんな1970年代の東映映画からたくさん影響を受けたタカハシさんですが、メジャーデビュー1作目となるアルバム『ついに秘密はあばかれた』の聴きどころや思い入れのある曲を教えてください!
そうですねぇ、あのー……今日のインタビュー、一応アルバムの宣伝もしなきゃと思ってるんですけど、めっちゃ難しいんですけど(笑)! 宣伝しようと思ってるんですけどまったく繋がらない(笑)! ……(気を取り直して)アルバムはですねぇ、全12曲でいろんなことをやってて、すごくメロディアスでポップな曲からアヴァンギャルドで攻撃的な曲まで全部揃っていて、どこを入り口にしてもこのアルバムを聴いたらオワリカラというバンドがわかるもの、そしてハマッてもらえるようなものにしたいなと思って作りました。言うなれば『トラック野郎』的なことですよね。エンタメからメッセージまですべての要素が入ってる作品にしたいなとは思っていたので、すごく欲張りなアルバムだと思います。そのなかで1曲聴いてほしいってなると、『今夜のまもの』ですね。MVも作りましたし、サイケデリックロック、プログレッシブロック、歌謡曲など自分たちの好きなものを上手く融合できたなぁと思っているんで、この曲をきっかけにアルバム1枚をぜひ聴いてほしいなと思います。


———『今夜のまもの』が『トラック野郎』で言う1作目のような……?
そうです、まさに(笑)! 深作欣二さんは本当にいろんな映画を撮ってるんですよ。SFも撮ってれば時代劇も撮ってるんで。そういう深作さんのフィルモグラフィーみたいなアルバムになってたらいいなと思います。はい(笑)。


タカハシヒョウリによる熱のこもったインタビューはいかがだっただろうか? 時代背景や作り手の想いなどすみずみまで細かく映画を味わい尽くしているタカハシ。彼の言葉ひとつひとつから、1970年代の東映映画の魅力が存分に伝わったに違いない。この記事が東映映画やオワリカラの音楽、そしてタカハシ自身や1970年代という時代に興味をもつきっかけになったら嬉しいです! タカハシさん、本当にありがとうございました!

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【オワリカラ、アルバム『ついに秘密はあばかれた』リリース!】

キーワードは“サイケデリックでカルトでポップ”! 2008年結成の4人組ロックバンド・オワリカラがメジャーファーストアルバム『ついに秘密はあばかれた』を5月18日にリリース。変幻自在なアンサンブルによる質の高い音楽が特徴的だ。

オワリカラ。左からカワノケンタ(ドラム)、カメダタク(キーボード)、タカハシヒョウリ(ボーカル、ギター)、ツダフミヒコ(ベース)
オワリカラ『ついに秘密はあばかれた』生産限定盤 ジャケット
オワリカラ『ついに秘密はあばかれた』通常盤 ジャケット

オワリカラ『ついに秘密はあばかれた』リリースツアー開催!


『オワリカラ Major 1st Album『ついに秘密はあばかれた』リリースツアー』
2016/06/06(月)広島・広島4.14
2016/06/23(木)千葉・千葉LOOK
2016/06/28(火)埼玉・埼玉HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
2016/07/03(日)岡山・岡山PEPPER LAND
2016/07/04(月)福岡・福岡LIVE HOUSE Queblick
2016/07/08(金)北海道・札幌 COLONY
2016/07/11(月)宮城・仙台enn


『オワリカラ 「ついに秘密はあばかれた」 インストアイベント』
2016/06/10(金)東京・タワーレコード新宿店7F イベントスペ-ス
2016/07/01(金)大阪・タワーレコード梅田NU茶屋町店 店内イベントスペ-ス


『「ついに秘密はあばかれた」レコ発ワンマン~世界灯(ワールドライト)に照らされて~』
2016/09/16(金)大阪・梅田Shangri-La
2016/09/23(金)愛知・名古屋ell.SIZE
2016/09/25(日)東京・渋谷WWW

榊ピアノ