杉作J太郎（男の墓場）のカープ愛【カープと私〜広島東洋カープファンによる9打席連続企画〜】

【祝】広島東洋カープ25年ぶり優勝！

実に25年ぶり（！）のセ・リーグ優勝を果たした広島東洋カープ！　この特集では、日本中を熱くしてくれたカープに敬意を表し、音楽界・エンタメ界のカープファンからの愛情あふれる「カープと私」エピソードを9日連続で公開します。10月12日からは32年ぶりの日本一を目指し、クライマックスシリーズのファイナルステージに挑む彼ら。まだまだカープは止まらないっ！　カープ カープ カープ広島！広島カープ！

『湧いても湧いても涙が止まらなかった』

ハッキリと広島カープを応援し始めたのが高校1年のときだからちょうど40年になる。40年の間、いろんな思い出がある。そのほとんどは忘れてしまってるか、簡単には思い出せない。が、すぐ思い出せることもある。それは何度も思い出しているから記憶が上書きされているのである。

30年ぐらい前、35年ぐらい前かもしれないが、カープの試合をラジオで聞いていたときだ。解説が長谷川良平さんだったので俺は一字一句聞き逃すまいと必死でラジオを聞いていた。当時、長谷川良平さん、金山次郎さんというおふたりがもっとも好きな解説者であった。本気で、心底、これでもかと、徹底的にカープ寄りの解説をされるからだった。

その日、回と回の間にウェーブが発生した。ウェーブという集団行為がまだ物珍しい頃だった。「ウェーブが発生して球場は盛り上がっております！」アナウンサーが言った。おそらく試合も盛り上がっていたのだ。するとそのテンションとまったく違う低いテンションで、長谷川さんは言ったのだ。「僕はウェーブちゅうのは好かんね」。ほんの短い間を挟んでアナウンサーは尋ねた。「なぜですか」、と。長谷川さんのお言葉は、流すにしては衝撃的、挑戦的すぎたのだ。長谷川さんはあっさりと言った。「ひとがやるから俺もやるというのは僕は好かん」。

1980年代中ごろだった。猫も杓子もがテニスラケット持って、男はやさしさを前面に押し出すようになり、女をものにするにはどうすればいいか、みたいな漫画や記事が週刊誌に溢れた時代であった。高校時代に俺といっしょに一家を起こした仲間たちも（一家と言ってもやくざではなく“極道やーさんず”というユニフォームもない草野球チーム）髪をさらさらに伸ばしてガールフレンドとクレープを食べたりしていた。流行ってるからといって何事だ！　みんながやればなんでもやるのか！　時代に迎合できず苛立つ俺に長谷川さんは道を示してくれた。

今年で言えば5月末。天谷宗一郎選手がサヨナラヒットを打った、あの試合のあった日から「今年は優勝するんだな」と予感した。軽い予感ではなくその優勝は絶対であるという強い予感であった。試合後のお立ち台に天谷選手と今村猛選手がいた。今村選手が涙ぐんでいるように見えたが俺が涙ぐんでいたからそう見えたのかもしれない。二十歳の誕生日の前日に初勝利した今村選手も苦しんでいた。シーズン開始早々の素晴らしい活躍と結果に俺は親戚のおじさんでもないのに心底喜んでいた。

そのとき、天谷選手がお立ち台で「どうせ天谷は三振するんだろう」とお客さんは思っているだろうから楽な気持ちで打席に入れた、みたいなことを言った。照れ隠しなのかもしれないがこれは最高に明るい言葉だった。サヨナラヒットの天谷選手に駆け寄り、浴びせられたペットボトルの水が、夏の終わりにビールになった。

8月7日の夜はどうしても移動せねばならず、四国の山中で俺は車のハンドルを握っていた。試合展開、そしてなにが起きたかの説明はもはや必要ないだろうからここでは割愛するが、山の中腹のサービスエリア、その駐車場で俺は1時間、泣いた。湧いても湧いても涙が止まらなかった。

言いたいこと、書きたいことはたくさんあるが、その欲求よりもいまは優勝できたことが嬉しいし、この先を思う気持ちが強い。緒方孝市監督も言ったが本当にもうそれしかないのだ。おめでとうございます！